藤井聡:毎日新聞『発言』 ~公共投資で地域の再生を~

毎日新聞2012年7月15日第17面

 

毎日新聞『発言』 ~公共投資で地域の再生を~

 

京都大学大学院教授 藤井聡

 

地方の地盤沈下は目を覆うばかりだ。一方で、東京には人も企業も集まり続けている。首都直下型地震は今後30年以内に70%の確率で起きるとされる。今のままで地震が発生すれば、日本全体が立ちゆかなくなってしまう。

私たち京都大レジリエンス研究ユニットは、こうした危機感に基づき「列島強靭化10年計画」を作成し、国会や全国知事会に提案した。今後10年のうちに北海道・東北▽北陸・羽越▽中国・四国▽九州──などで新幹線に代表される高速交通網を整え、四つの「大交流圏」を生み出す。東京にある政府機関には耐震補強のような地震対策を徹底する。財源として年間で最大20兆円の国債を発行する、というのが骨子だ。

公共事業には「財政を悪化させる」「景気浮揚につながらない」といった悪い印象が広がっている。しかし、本当にそうだろうか。

民主党政権が初めて編成した10年の予算では、公共事業費の総額は5兆8000億円。27兆3000億円に上る社会保障費の2割程度だ。

「官から民へ」「コンクリートから人へ」といった掛け声の下、日本は先進諸国では公共事業を突出して減らしてきた。09年の総額は96年比で50・1%と半減している。米国は民間主導の「小さな政府」を志向するとされるが、ほぼ同時期に200・9%と倍増している。財政規律を重視することで知られるドイツも100・7%と微増させた。

公共事業には、国内の幅広い産業にお金を回すという特徴がある。90年以降の国内総生産(GDP)について分析したところ、中央政府が公共事業に1兆円を使うとGDPは6兆円増えていた。輸出が1兆円増えても、GDPの増加は1兆3000億円にとどまった。輸出に比べ、公共事業は原材料、車両、労働者向け医療などさまざまな業種を潤すことがうかがえる。

「日本では少子高齢化が進んでおり、新たな投資対象は余りない」とみる人もいる。しかし、交通網の整備・再構築は特に必要だ。昨春開業した九州新幹線沿線の熊本・鹿児島は活況にわく。マイカーに頼らず、バスや路面電車で行き来する「コンパクトシティー」が増えれば、子育てがしやすくなり、高齢者も暮らしやすい。

日本経済は今、デフレに苦しんでいる。日本では11年5月現在、民間銀行が貸し出しできずにいるお金が166兆円ある。国債はほぼ国内で消化されている。金利も限りなくゼロに近い。政府が新たに国債を年間20兆円発行しても、インフレには直結しない。むしろ景気の循環と税収増、雇用拡大、税収の増加をもたらすだろう。税収が増えれば社会保障費に充てる財源も増える。インフレの兆しが表れた段階で、国債発行と公共投資を抑える判断をすればいい。

地方に元気があるうちに油を差し、さび付いた地域をよみがえらせたい。この提案が日本再生のための最良のプランだと信じている。

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