TPPとあわせた憲法改正は「改悪」となる

日刊ゲンダイ 2012年11月30日

日本経済の「虚」と「実」~新聞報道に騙されるな!~(22)

TPPとあわせた憲法改正は「改悪」となる

 

京都大学大学院教授 藤井聡

 

世論の注目を集めている「日本維新の会」の公約には,TPPへの交渉参加と憲法改正の手続きの緩和が盛り込まれると言う.

多くの国民はこの二つが何気に「併記」されていることに,とりたてて違和感がないのかもしれないが,これは日本の命運にとっては極めて深刻な問題を孕むものだ.

そもそも一国の憲法とは「国柄を守り,その国柄にとっての利益を守る」ためのものだ.ここで重要なのは「国柄を守る」という一点である.この一点がなければ,それが一体誰の利益を守るものなのを見失うこととなる.例えば歴史と伝統に裏打ちされた日本の国柄を引き継ぐ「日本人にとっての利益」は,「外国人の利益」とは明確に異なる.同じくその利益は,遺伝子はニホンジンでも,ただ単にカネを稼いだり名誉や権力を手に入れる事だけに専心するような人々の利益とも全く異なる.だから一国の憲法は,その国の「国柄」の下で制定・改定せねばならぬものなのである.そして一旦憲法が定められれば,今度は逆にその憲法が,その国の「国柄」に巨大な影響を及ぼす事となる.国民はこうして「憲法の制定・改定」を通して「あるべき国家」を自らの手で築き上げていくものなのだ.

ところが,TPPというものは国内の経済や社会の様々な仕組みをグローバルスタンダード/アメリカンスタンダードに変えるものだ.言うまでもなくそこには「国柄」という概念はなく,むしろ「国柄の消滅」の理念しかない.

だからTPPが象徴する過激な自由貿易の推進を志向する政治家や政党が「憲法改定」に着手すれば,日本の国柄は大きく失われ,かつその「国柄喪失状態」が憲法によって「固定化」されることとならざるを得ない.

つまりはこれまで「保守」と一部で言われ続けた石原氏がその代表を勤める「日本維新の会」は,TPPと憲法改正を同時に進めんとすることで,日本の国柄やそれに基づく国益を「保守」するのではなく,グローバル企業や諸外国国民の利益を「保守」することとなるのである.

だからこそ,一人でも多くの「保守的」な政治家や政党を支持する国民は,総選挙を控えた今,今一度,そもそも何を「保守すべき」なのかを思い起こした真っ当な判断を行う事が強く求められているのである.さもなければ,我が国は国柄を失い,日本という国そのものがグローバルスタンダードの中で熔解する憂き目に直面せざるを得ないのである.

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