「維新」や「改革」という耳あたりの良い言葉にダマされるな!
2023.07.05
日刊ゲンダイ 2012年12月7日
日本経済の「虚」と「実」~新聞報道に騙されるな!~(23)
「維新」や「改革」という耳あたりの良い言葉にダマされるな!
京都大学大学院教授 藤井聡
今回の総選挙の重要論点の一つが,経済対策だ.これについて各党は様々な種類の対策を打ち出しているが,それらは大きく分類すれば次の二つとなる.
一つはTPPや,各種の構造改革を通して自由化を推し進め,国内の大企業を優遇し輸出を伸ばしていこうとする「自由化」戦略.もう一つは,TPPに慎重な立場を取り,過激な構造改革を差し控えると同時に,不況によって傷ついた国内産業が自立的に成長できるようになるまで,政府が様々な「支援」を行う「公的支援」戦略である.
TPPに前向きで徹底的な構造改革を意味するグレートリセット等を主張する政党は前者の「自由化」戦略を採用する一方,「強靱化」等の積極的な財政,金融,インフラ政策を進めようとする政党は,後者の「公的支援」戦略を主張している.
では,今日の日本経済を立ち直らせるためにいずれが適当なのかと言えば,それは明確に「自由化戦略」ではなく「公的支援戦略」なのだ.
そもそもデフレ不況とは,各種の中小の国内企業が「連鎖的」に倒産し,失業していく最悪の経済状況を言う.このような状態でTPPや各種改革を通して,より一層大企業が自由に活躍できるようにする「自由化」を進めれば,国内企業の連鎖的な倒産はさらに加速する.そうなれば税収も全て落ち込み,自由化すればするほどに失業者が増えるだけでなく財政も「悪化」していく.
この様なデフレ不況を終わらせるには,TPPや増税等を断固として阻止し,金融緩和策の下,財政を拡大し,未来の成長や防災ために求められる様々な「公共投資」を大規模に展開していく「公的支援」が求められている.そうした公的支援を四,五年程度展開すれば,日本経済は自立的に成長していくこととなろう.そうなった時始めて,我々は必要に応じて少しずつ「自由化」を図っていけば良いのである.
言うなればデフレ下の今,自由化戦略を採用するのは「栄養失調で瀕死の者に競争を強いる」ようなものなのであり,今必要なのは,「栄養失調の者に安静と点滴を施す様な“支援”」なのである.さもなければ,我々を待つのはさらなる「健康悪化」や「死」に他ならぬというのは「常識」と胃って差し支えない.
日本の未来のためには,我々はこうした「常識」を取り戻す事が必要なのである.我々は決して,「維新」や「改革」といった耳あたりの良い美辞麗句に惑わされてはならないのである.