京都大学 都市社会工学専攻藤井研究室

京都大学大学院工学研究科 都市社会工学専攻
交通マネジメント工学講座 交通行動システム分野

参議院予算委員会 公聴会 藤井聡公述人 公述禄 (平成24年3月22日)

参議院予算委員会 公聴会 藤井聡公述人 公述禄

(平成24年3月22日)

 

注) ~~を記載した部分は、事後的に適宜付与した見出しである

 

本日は斯様な機会、頂戴いたしまして誠にありがとうございます。京都大学大学院、ならびに京都大学レジリエンス研究ユニット長を勤めさせて頂いてございます、藤井でございます。よろしくお願いいたします。

本日、皆様におかれましてはお手元の資料…私の名前も記載させていただいております、こちらの資料をご覧頂ければと思います。なお、この資料は京都大学の藤井聡のホームページでも公表いたしている物でございます。


 ~~世の中、(そら)ばかりなり~~

本日は、我が国日本の 国家予算のあり方を考えるにあたりまして、極めて重大なお話をいたしたいと考えております。

それは、経済の専門家の皆さんのご主張の中には、少なくともその一部ではございますが、もちろん全てではございませんが、極めて重大な(そら)言が含まれていることがある、ということであります。

多くの先生方、国民の皆様方は、そんな馬鹿なという風にお感じかもしれません。

しかし、世の中、ウソ話がまかり通るということは、何も珍しいことではございません。

例えば、資料の2頁目をご覧ください。

今から700年も前の鎌倉時代、吉田兼好の徒然草の一節でございます。

 世に語り伝ふること まことはあいなきにや 多くは皆 虚事なり。

これはつまり、世間で言われていることは、ほとんど嘘話だ、ということでございます。さらに、

 いいたきままに語り為して  筆にも書きとどめぬれば  やがてまた定まりぬ

つまり、学会やテレビや審議会で好き勝手なことを言って、その内、筆にも書きとどめぬれば、即ち教科書やペーパーになってしまえば、どんなウソ話でも、正しいものとされ、挙げ句に、政策や法律として定まってしまう、という恐ろしいお話でございます。

これは、今より日本人がずっとずっと立派であったであろう、大昔の話でございますから、今はそうであっても何も不思議ではない、という事はご理解いただけるかと思います。

では、本当に、経済の専門家の皆様方の中に、本当に間違った事を口にしておられる方が いるのかどうか、という事について本日は、中でも特に、予算編成上、極めて重要な、3つの(そら)言ではないか、という疑いのあるお話を告発申し上げたいと思います。

 

~~「消費税増税のインパクトは、限定的」((そら)事一)~~

一つめのお話、それは3頁目をご覧ください。

「消費税増税のインパクトは、限定的だ」というお話でございます。

4頁をご覧下さい。

これは、まず、異なった理論的見地からのグラフでございますが、宍戸駿太郎先生のマクロモデルDEMIOSに基づいて、消費税増税のインパクトをいくつかのケースで計算したものでございます。

ご覧のように、増税後すぐには影響は出ませんが、どのケースでも、3年目あたりから、景気が大きく減速します。

これは、ある年次の消費税増税のインパクトは、数年間―単年度ではございません―続くこと、そして、3年ほど経てば、その前年、前々年の増税インパクトが累積して、大きく景気が減速していくこと、これが原因でございます。

いわば、消費税増税は、幻の格闘技の技の三年殺しの様な効果を持つわけでございます。

もちろん、これは、特定のたった一つのモデルの計算結果ではございますが、真っ当なモデルであれば、それらはいずれも同様の効果を算定している事が知られております。

5頁をご覧下さい。

ご覧の様に、一つの例外を除いて、たった一つの例外を除いて、どのモデルも、5年も経てば―1年ではないです―5年も経てば、消費税増税によって4~6%、GDPが棄損することが示されています。

なお、その挙動不審のモデルとは、なんと政府の内閣府のモデルでございます。驚くべき事に、このモデルは、消費税増税の破壊的インパクトは、年々なくなっていくという、私ごときには、理論的には全く理解できない挙動をとってございます。

このような重大な疑義を孕んだモデルを未だ使い、これによって、消費税増税を正当化しているのだとすれば、それは、政府の、国民に対する「詐欺・詐称」であるという重大な疑義が―断定はしておりません―疑義が浮かび上がります。

是非、本モデルの抜本的見直しを、政府に、強くお申し入れいただきますよう、国会の先生方には、平に、御願い申し上げたいと思います。

さて、以上は、理論的な指摘でありましたが、経験的にはどうか、という点について、6頁をご覧下さい。

これは、いくつかの事例があるのですが、最も分かりやすい事例を今日は持って参りました。

1929年のアメリカの大恐慌の時の「政府の借金」の対GDP比率のグラフでございます。

ご覧の様に、消費税の導入をはじめとした緊縮財政をしいたフーバー大統領期、財政は明確に悪化し続けております。

借金は増え続けております。

増税をしたのに借金は増え続けている。

ちなみに、積極財政を敷いてからそれが減っていくという構造でございます。

この時の消費税の導入後、GDPはなんと、約半分にまで失速しております。この歴史的事実を踏まえれば、「消費税増税の影響は限定的だ」という話が、単なるウソ話であるという疑義が―当然またこれ疑義でありますが―疑義が濃厚であることが分かります。

 

~~「社会保障費増に対応するために増税は不可避」((そら)事二)~~

では、次のお話に参りたいと思います。

7頁をご覧下さい。

それは、「社会保障費の自然増に対応するには、増税するしかない」というものでございます。

これは、学者の先生方のみならず、多くの政治家、メディアが繰り返し喧伝するもので、国民も、「それはそうだ」と信じ、「だから、増税も仕方がない」、と考えている風潮があるように思います。

しかしこれは極めて悪質な、真っ赤なウソである疑義が濃厚であります。

8頁をご覧下さい。

この図の棒グラフはGDPを、赤の折れ線グラフは税収なのですが、ご覧のように、全くもって両者は、ぴたりと一致してございます。

これは当たり前のことでございますが、GDPが増えれば税収は増える、という当然の結果を意味しています。

こうした関係は一般に先程もお話したのですが、「税収弾性値」という数値で表現されるのですが、先程ご紹介のあった昨年末の財政制度等審議会がとりまとめたペーパーを精読しますと、このグラフに示されている「名目GDPと税収がよく一致している」という事実をあえて「科学的でない」と切り捨て、あえて、「経済成長による税収増分は低い」と結論付けています。

しかし学者として断定しますが、その部分の議論は、極めて“非科学的”であり、統計学的には、“出鱈目”とすら言いうる様な議論が掲載されています。

したがって、「経済成長による税収増分は低い」という結論は、極めて重大な誤謬が潜んでいる―これも疑義でありますが―疑義が、濃厚であり、そのペーパーに書かれているよりも、ずっと高い、税収弾性値が、実態である可能性が、極めて濃厚であると、申し上げたいと思います。

さらに言いますと、消費税率には、常識的な上限があり、ずっと上げ続けていくという事は、これは不可能であります。

しかし、社会保障費は、当面の間、増え続ける見込みだという事は皆さんご案内の通りでございます。

ですから、増税で高齢化社会に対応を、という論理そのものが、端から破綻している疑義すらも考えられるわけであります。

一方で、国民と政府の努力さえあれば、経済成長に制限がありません。

ですから、高齢化社会に対応するために今目指すべきは、増税ではなく、経済成長しか、考えられないという事を断定的に申し上げておきたいと思います。

では、経済成長は、可能なのでしょうか?

もちろん、それは可能であります。

しかし、多くの専門家の皆様も、経済成長なんてできない、という論調を、いつも、いつも口にされます。

しかし、もちろんそれも、まっかなウソである、疑義が濃厚であります。

 

~~「積極財政では、経済は成長しない」((そら)事三)~~

9頁をご覧下さい。

これは、本日最後の、3つめの、ウソである疑義があるのではないかというお話の紹介でございますが、それは、「積極財政では、経済は成長しない」というお話でございます。

彼等は、積極財政は、民業を圧迫したり、円高を誘発したりして、結局、積極財政の効果は、相殺されると主張します。

そうした論理の全ての根底にあるのが、「国債を発行すると、長期金利が上がる」という論理なのですが、これが、そもそも、事実と乖離しているという事をお話したいと思います。

10頁をご覧下さい。

ご覧のように、国債発行が年々増え続けています。

しかしながら、この理論に反して、長期金利は年々低下し続けているという理論的には訳の分からない行動を取っています。

したがって、このグラフ一枚で「積極財政では経済成長しない」という論理そのものが、現状の日本においては、破綻している、適用できないということが分かります。

そのことは、11頁のグラフから、より明確に示されております。

このグラフは色々な情報を掲載していますが、一番下の、緑色の財政収支の折れ線だけに ご着目ください。

これは、政府の収入、つまり、税収と、出費との差額、財政収支を示しています。

ご覧のように、バブル期、右肩上がりで、財政収支は改善していきます。しかし、91年のバブル崩壊で、一気に右肩下がりに悪化します。赤の矢印で描いている通りです。

しかしこの時、積極的な、徹底的な積極財政を行った結果、93年頃から、財政は改善し、財政収支の悪化 は和らいでいきます。

ところが、97年に増税をする緊縮財政を採用した途端、財政は再び、右肩下がりに悪化します。

ただし、それを見かねた小渕先生が、99年に徹底的な積極財政を果たします。

そうすると、右肩下がりだった財政収支は一気にV時回復をし、右肩上がりに、改善していきます。

しかし、その翌年には残念ながら小渕先生は他界されます。

そして残念ながら、その後、小泉内閣による徹底的な緊縮財政が再び始められ、ご覧のように、2000年頃、折角、財政収支が改善していたのに、その改善がピタリと とまってしまったのです。

つまり、この経緯を素直に、虚心坦懐にご覧頂きますと、積極財政は、確実に財政を健全化させていることは明白でございます。

一方、緊縮財政をはじめた 橋本内閣・小泉内閣は、財政を悪化させてしまったということが、過去の日本の実際の経験なのであり、これは先に紹介した、アメリカの大恐慌の経験と、ピタリと符号しているのです。

この事はつまり、財政出動は無効だ、という話が完全なるウソ話である疑義を、明確に示しています。

その点をより具体的に分析したのが、12頁です。

この赤い線は名目GDP、青い線は公共事業費で、灰色の線が、輸出です。

ご覧のように、赤い線のGDPは、公共事業が多い時には伸び、あるいは、輸出が伸びる時にも、伸びているのです。

そして、どちらも小さくなれば、GDPは縮小します。

これは定義上、自明なのですが、統計分析からは、公共事業のGDP上昇効果が、輸出のそれの実に4倍程度であることが示されています。

この手の分析はいやり方によって、いろいろ変わってくる事はあるのですが、いずれにしてもこの結果は、「積極財政では、経済は拡大しない」という説が、明らかにウソであるという重大な疑義を―これもまた疑義でありますけど―明白に示しているのであります。

 

~~デフレとインフレで経済政策を完全に入れ替えるべき~~

このように、

  消費税増税のインパクトは限定的だとか、

  高齢化社会では増税は不可避だとか、

  積極財政では景気拡大は無理だとか言う話は、

全て、理論的に、実証的に簡単に論駁される、完全なウソ話である疑義が、極めて、極めて濃厚であるのでございます。

では、真実の、正しい「経済政策」とはどういうものなのでしょうか。

14頁をご覧下さい。

この表は、インフレ期と、デフレ期で、なすべき経済政策を完全に入れ替えるべきである、インフレの時はインフレ対策、デフレの時はデフレ対策をすべきであるという事を主張するものであります。

インフレとは、そもそも経済が過熱しすぎている状況ですから、その熱を冷ますために、緊縮財政、増税等が当然必要になって参ります。

一方、デフレの時には、経済が冷たくなっている状況ですから、経済を、温める対策が必要であります。

だから、デフレの時は、消費税増税、例えばあるいは公務員人件費削減等の対策などは論外中の論外であるという事を強く申し上げたいと思います。

それとは逆に、投資減税などの積極財政などが必要なのであります。

つまり、インフレかデフレかの状況を見ながら、適切なタイミングで、適切な経済政策を図ることこそが、「正しい」やり方なのであります。

しかしながらこれは、言われてみれば、本当に簡単な話で、中学生でも分かるような話やと思うんですが、専門家の方はこの簡単なお話を口にされません。

なぜか。 その答えを、15頁に書かせていただいております。

 

~~なぜ、多くの経済専門家は正しい政策提言ができないのか?~~

実は、大恐慌以降、ケインズ先生の理論のお陰で、日本という唯一の愚かな例外を除いて、デフレは、世界中で、生じなくなりました。

その結果、皮肉にも、ケインズ先生はケインズ自らの力のおかげでケインズは死んだと言われてしまったわけであります。

そしてインフレを前提とした理論だけが発展し、それが、学会や定説の教科書として「定まって」しまったのです。

だから、今、多くの経済の専門家が、デフレに対する処方箋を知らないという事態を迎えることとなったのであります。

ただし、リーマンショックを経験したアメリかでは、既に、ここで申し上げた「正しい経済対策」の議論が、始められております。

是非、我が国日本でも、そんな当たり前の、理論的、思想的な大転換を、全ての学者の先生方、そして全ての政治家の皆様方が はたさねばならぬのではないか、と、一人の学者として、強く強く強く強く申し上げたいと思います。

 

~~民を(すく)う「デフレ脱却」「国土強靱化」のための積極財政を~~

では、結論でございます。

16頁をご覧下さい。

論理的、実証的、理性的に考えれば、デフレの今、消費税増税などによる 緊縮財政は、デフレを悪化させ、財政を悪化させ、倒産と失業者を増やし、そして、自殺者を増やし、挙げ句に、被災地復興の大きな妨げになるということは、些細なもので恐縮では御座いますが、私の、学者生命の全てを賭して断言致しますが、明々白々なのであります。

景気対策、被災地復興、円高対策、そして、財政健全化のために―財政再建も含まれて御座います―財政再建化のために、今求められているのは積極財政をおいて、他に何もございません。

折りしも、東日本の被災地に必要なのは、積極財政であることは 万人が認めるところであります。

さらには、我が国は今、首都を壊滅させ得る、直下地震が10年以内に十中八九の可能性で起こるであろうことが、そして、東日本大震災の10倍以上もの被害をもたらし得る西日本大震災も、20年以内に同じく7、8割の可能性で生ずることが予期されております。

それに対する備え、つまり、国土強靱化には、例えば年間で10兆円や20兆円といった規模の予算が求められています。

しかし今回の予算ではたった4800億円しか計上されておりません。

これは本当に必要な数字のたった数%、消費税よりも低いぐらいの水準のことしか計上されておりません。

この程度の予算であれば、我が国は何百兆円もの経済被害を受け、何万人、何十万人もの民が―無辜の民が―殺められることとなるでしょう。

逆に、10年累計で例えれば、100兆円、200兆円の財政出動があれば、日本のデフレは終わり、力強く経済が成長し、国土が強靭化され、多くの日本国民が救われることとなるでしょう。

この当然の理性的議論の全てを忘れ去り、万が一にも、財政を出動せず、財政規律を過渡に慮りつつ消費税を増税するような愚策が、まかり通ったとするなら、

その方針は、経世済民、つまり、民をすくうどころか、ただただ、何百万、何千万という民を苦しめ続けることとなることは必定なのであります。

そうである以上、政府、そして国会の先生方には、もうこれ以上、腐儒の(そら)事に惑溺されて、国民を殺め続けるような蛮行を、今すぐに、今すぐにおやめいただく勇気をこそ、今、まさに、持たれませんことを、私が賭けることができる全てのものを賭しまして、心から、強く強く、祈念いたしまして、私の公述とさせていただきたいと思います。

どうもありがとうございました。