京都大学 都市社会工学専攻藤井研究室

京都大学大学院工学研究科 都市社会工学専攻
交通マネジメント工学講座 交通行動システム分野

研究室の方向性-詳述

藤井研究室の紹介

当研究室では,実践を通じてしか学究は不能であると説いたパースやジェームズらの
プラグマティズムを基本的な研究姿勢としつつ,土木・国土・交通・都市等の現場における
実践的な人文社会科学研究を進めています.

研究テーマ

具体的には,次のようなテーマの研究を進めています.

①総合的社会科学に基づく「国家政策論」(国土・経済・産業・財政。貿易のマクロ政策論)

   都市・各地域における経済や社会,文化に関わる諸活動は,日本全体の「国土・経済・産業・財政・貿易等
   についてのマクロな諸政策に決定的に左右されます.本研究室では,そうしたマクロな視点から,日本が
   より豊かで,かつ強靭な国家となり,それを通して国民一人一人が豊かな暮らしや安寧を得ることを目的と
   した,マクロな国土政策論,経済産業政策論,財政政策論や貿易政策論,マクロ経済学や社会学,政治
   経済学,社会心理学等の社会科学を総合的に援用しながら研究します.また,こうした研究成果の中でも
   とりわけ社会的・政治的な影響が予期される研究成果についてはジャーナリズム(新聞,一般書等)での
   発表活動も研究活動の一環として進めています.

(参考文献)
(1)藤井 聡:公共事業が日本 を救う,文春新書,2010
(2)藤井 聡:正々堂々と「公共事 業の雇用創出効果」を論ぜよ~人のためにこそコンクリートを,日刊建設工業新聞社, 2010.
(3)中野剛志:『自由貿易の罠』,青土社,2009
(4)中野剛志:『恐慌の黙示録』,東洋経済新報社,2009

②公共政策に資する「実践的な人文社会科学研究」(物語・ナショナリズム・地域愛着研究)

   行政が行う国土・都市・地域についての「計画」やそれに基づく「政策行為」,あるいは,住民やNPOが
   参加しながら進める「まちづくり」,さらには,一般の人々が織りなす様々な「企業活動」はいずれも,
   それを行おうと考える人々の動機や思い,あるいは,熱意無くして進むものでは決してありません.
   逆に,どれだけ不十分な資源(資金や人材,組織など)しかなくとも,そこに人々の「思い」や「熱意」さえ
   あれば,徐々にそのような「資源」が調達され,集まり,遅かれ早かれ,様々な活動を展開されるに至ります.
   本研究室では,そんな人々の社会的な活動に資する人文社会科学研究を「物語」(narrative)や
   「ナショナリズム」(nationalism),「主観的幸福感」(subjective well being)の考え方をを手がかりとしながら,
   実践的に行います.

(参考文献)
(1)藤井 聡:土木計画学-公共 選択の社会科学-,学芸出版社,2008.
(2)中野剛志:国力論,以文社,2008
(3)中野剛志:経済はナショナリズムで動く,PHP研究所,2008

③社会心理学・計量経済学を活用した土木・交通・公共政策に資する「技術開発」

   国土計画や交通計画,都市政策や地域政策を進める際には,様々な「技術」が必要とされています.
   例えば,交通計画を予測するときには「交通需要を予測する技術」,渋滞緩和や地域防災力の向上
   や公共政策の合意形成を図るには「人々の意識や行動の変容を促すコミュニケーション技術」(モビ
   リティマネジメントやリスクコミュニケーション),交通を通してまちづくりを進めるためには,「新しい道路
   の使い方に関する技術」(シェアードスペース)等がそれぞれ必要となります.本研究室では,こうした
   「技術開発」を社会心理学や社会的ジレンマ研究,そして,計量経済学等を援用しながら,かつ,現場
   の行政やコンサルタントの方々と一緒になって実務への導入を目途としつつ,実践的に進めています.

(参考文献)
(1)藤井 聡:なぜ正直者は得を するのか-「損」と「得」のジレンマ-,幻冬舎新書,2009.
(2)藤井 聡:社会的ジレンマの 処方箋:都市・交通・環境問題の心理学,ナカニシヤ出版,2003.
(3)藤井 聡・谷口綾子:モビリ ティ・マネジメント入門:~「人と社会」を中心に据えた新しい交通戦略~,学芸出版社,2008.

教育方針

研究室では,配属された学生にまず公共政策のための心理学をはじめとした社会科学の諸領域
の基礎をスタッフから講義します.その上で各学生は,それぞれの研究テーマ毎の基礎的文献を
学習しながら,当該テーマに関連する外部の様々な方々と一緒に,それぞれの現場で作業を
進めていきます.
一方,研究室の合宿では,各々の研究テーマは一旦さておき,こうした研究活動の背景にある
考え方についての解釈論や,より一般的,教養的な内容について話し合います.
こうした活動を通じて,一人一人が,この研究室が,ひいては大学や学会が,あるいは国や地域
や社会そのものが,それぞれ一体何のために何をしているのか,ということの認識をスタッフも
含めて皆で深めていくことを企図しています.そして,こうした組織的な研究活動に従事することを
通じて,若い学生に自分自身よりも大きなもののために働くということの経験と,その楽しさや
醍醐味を提供していきたいというのが,「教育機関」としての本研究室の願いです.