藤井聡:「TPP交渉参加」など論外である(抜粋)、建設Mil

建設 Mil 2011.11掲載予定

「TPP交渉参加」など論外である(抜粋)

京都大学 藤井 聡


今、日本国内は11月のAPECに向けて、TPPの交渉参加に加入すべきかどうかについての議論が白熱している。そんな中、多くの国民が抱いている認識は、「よく分からないが、自由貿易を進めるというのは悪い事じゃないし、まずは交渉参加くらいならいいのではないか」という程度のものではないかと思う。

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しかし、これは大変「危険」な話である。

なぜなら賛成派は、「TPPによって経済成長が可能となる」、ということを主張する一方、反対派は「TPPによって、国内の産業は様々な分野で大打撃を受ける」ということを主張し続けているからだ。

もし仮に、どちらの意見が正しいのか分からなかったとしよう。

その時、日本はTPPに参加すべきか否かと言えば、答えは、明確に「No」だ。

なぜなら、「反対派を信じたが、やっぱり賛成派が正しかった」という時に失うモノは「今以上の経済成長」だけとなるが、「賛成派を信じたがやっぱり反対派が正しかった」という時に失うモノは「日本の国内産業そのもの」だからだ。

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では、「TPPの危険性」としては、どんなものが指摘されているのかを概観してみよう。

第一に、米をはじめとした農産品の関税撤廃によって、日本の農業が壊滅的なダメージを受ける、という指摘だ。

第二に、日本の建設業が壊滅的なダメージを受ける、という指摘だ。今、WTOに加盟している日本は、公共調達において一定金額以上の入札案件は、国際競争となることが定められている。ところが、日本政府の公式文書の中でも、TPPに加入すれば、その基準金額が半分から三分の一に引き下げられる危険性がある、と指摘されている。そうなれば、国内の建設市場に海外の建設業者が現実に入ってくる可能性が生まれる(例えば、米国政府文書には、米国が興味を持っている日本国内プロジェクトとして「GAIKAN」といったローマ字等が記載されている)。

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第三に、アメリカが国有化した保険会社AIG等の業績を伸ばすためにも、TPP交渉の中で、「米国を除く、世界最大の保険市場をもつ日本のKYOSAIやKANPO」(これもまた米政府文書に、こういうローマ字で書かれている)が「解体」されていく事態が危惧されている。実際、米韓FTAでは、米保険会社が参入出来やすいように、韓国内の諸種の共済制度が解体されることとなっている。

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繰り返しとなるが、以上の危惧の全てが現実化するかどうかは分からない。しかし、それらのいずれもが、生ずる危惧がありありと予期されているものばかりなのだ。

そうである以上、「大怪我するかもしれないバス」には乗らないと判断できる理性がある人物ならば、現時点においてTPP交渉参加という決断はあり得ない、とあっさりと判断するに違いないのである。

我が国政府がその程度の当たり前の理性を取り戻されん事を祈念したい。

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