エンジェルウォーズ~“敗北”に負けない天使~

全国商工新聞「随想」 2012年10月22日号


エンジェル・ウォーズ ~“敗北”に負けない天使~ 


京都大学大学院教授・同大学レジリエンス研究ユニット長 藤井聡


世界的映画サイトで昨年のワースト1に選ばれたのは,エンジェル・ウォーズという映画だった.これは,不遇の境遇にたたき落とされた少女が仲間達と共に「自由」を勝ち取るために戦うという至ってシンプルな映画だ.筆者はとりたてて期待せずに観始めたのだが,観終わった時には驚くべき事に,若い世代,とりわけ少年少女にとって「必見」の映画と強く感じたのだった(実際,筆者は高一の娘に後で観させた程だ).

自由を求める戦いを続けた主人公は最後に,彼女を辱めようとする俗物の固まりの様なな男に弄ばれる他ないという絶望状況に至る.しかしここで彼女は,その俗物に自らの身を捧げれば仲間を救えるという事実に思いが至る.そして彼女は,「自由のため」に戦い抜いたその戦いの延長として,「完全に自由を放棄する」という道を自らの意志で選び取る.そして彼女は「勝ち誇った表情」を浮かべつつ自らの自由を完全に放棄する───.

画面に一瞬映し出されたその表情は,絶望の中で戦い続ける者にとって絶対に忘れてはならぬものを表している.それはどれだけ敗北が決定付けられていようとも最後の一刹那まで絶対に屈従(コンプライアンス)せずに戦い抜くという誇り高き精神だ.そもそも,どれだけ敗北が決定づけられていても戦うべき戦いというものは厳然としてある.そしてこの少女の「自由と独立」のための戦いは文字通り,そういう戦い続けねばならぬものだったのだ.

折りしも今日本は,自国の独立が覚束なきままに,絶望的に暗い時代に突入せんとしている.この時代に生きる者に求められているのは,仮に敗北が決定づけられたとしても絶対に戦いを止めぬ不屈でありながらも気高い精神だ.日本に明るい未来があるとするなら,一人でも多くの者がそういう精神を携えることの他に何もない.

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