大日本人~「笑い」こそ勝利~

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全国商工新聞「随想」 2012年12月17日号

大日本人 ~「笑い」こそ勝利~

京都大学大学院教授・同大学レジリエンス研究ユニット長 藤井聡


本連載ではいくつかの映画を評論したが,それらは全て「護るべきものを護る戦い」を描いたものだった.無論そこで勝つためには死なねばならぬ時も(さや侍・エンジェルウォーズ),他者を殺めなければならぬ時も(ドッグヴィル),生きねばねばならぬ時もそれぞれあった(八日目の蝉).

とはいえこの世は敗北ばかりだ(東京物語).だとするなら,敗北した時にはどうすべきか──そんなシリアスな問いに挑んだのが松本人志のギャグ映画「大日本人」だ.

松本人志扮する「大日本人」とは,日本を潰そうとする「悪い怪物」と日々戦う和製ヒーローだ.彼はかつて国民的英雄だったが今や皆からバカにされている.それでもめげずに彼は戦い続けるのだが,ついに恐ろしく強い北朝鮮の怪物が現れる.残念ながら大日本人は敗れる.が,その時突如としてアメリカンヒーローが現れ怪物をやっつける.そして大日本人はアメリカの自宅に無理矢理に招かれ,肩身狭く「あ,すんません….」と言いながら皆で夕食を食べる.この最後の夕食シーンは極めて秀逸な「コント」で観客は腹を抱えて笑う──.

しかしこの映画は「今の日本の姿」を描き出すものなのだ.日本人は防衛の気概を喪失し,近隣の小国に恐怖し,対岸の大国に擦り寄る.にも関わらずその情けなき現実を隠蔽し,自らのために戦う人を蔑ろにする──なんと愚かで不道徳な民族だろう──しかし少し見方を変えればこれほどに「アホなおもろい話」は無い.むしろこの情けなき時代を生きざるを得ぬ者はその情けなさを「笑い飛ばす」他無いのであり,その「笑い」こそが次のシリアスな勝負における「勝利」へとつながるのだ.

如何に悲惨な状況にあろうとそこに「笑い」があれば敗北は我々に一歩も近づけない.だから我々は「笑い」を忘れぬ生き方を,決して忘れてはならないのである.