「国土強靱化」で富国への道歩め

11月 30, -0001 by 未分類 No Comments

 

【正論】 「国土強靱化」で富国への道歩め

産経新聞,2012.7.4

京都大学大学院教授・藤井聡


日本はかつての栄光など見る影もないほどに衰微してしまった。1990年代、国内総生産(GDP)は世界第2位、一人当たりGDPに至っては経済大国と呼ばれる国々の中でトップであった。だが、98年に、日本はデフレに突入してGDPで中国に追い抜かれ、一人当たりのGDPも世界20位前後を低迷するまでに凋落(ちょうらく)した。

≪諸悪の根源デフレを退治せよ≫

日本経済を蝕(むしば)むデフレとは、物価や所得が下がり、GDPが萎(しぼ)んでいくマクロ経済現象だ。日本は過去15年もの間、そこから脱却できず、かつて523兆円あった名目GDPが昨年は468兆円と1割以上も縮小した。倒産も失業も増え、失業率はかつての2倍余に膨らみ、自殺者も年間1万人ほど増えたまま高止まりしている。

さらにいえば、GDPの縮小は税収減となって財政悪化をもたらし、社会保障費の負担問題をも顕在化させたほか、教育、国防、防災といった政府活動全体を著しく減退させた。つまり、現代日本社会の諸悪の根源ともいうべき深刻な問題、それがデフレなのだ。

では、なぜ日本がデフレに陥ったのか。残念ながら多くの国民はこの点を十分に理解していないようだ。しかし、答えは簡単だ。

例えばリーマン・ショック後、日本同様のデフレ病を患った米国の議会予算局(CBO)はこの5月、その原因を「失業率が高く、多くの工場やオフィスが未稼働であること」と平易に説明する報告を公表した。つまり、失業者が増え、オフィスや工場が未稼働であれば、国民所得も法人収益も減る結果、皆がオカネを使わなくなって、より一層失業やオフィス・工場の閉鎖が増大する。これが世に言う「デフレスパイラル」だ。

≪カギは欧米並みの財政出動に≫

この状況を打破するには、何が必要か。この答えもいたって簡単だ。失業者を雇い、未稼働となったオフィスや工場を再稼働させるべく、「国中の仕事総量」を増やせばいい(少々、専門的に言うならデフレギャップを埋めるということだ)。事実、先のCBOは、政府の財政出動によって需要を増やすべきだ、と主張している。

オバマ米大統領の下で国家経済会議(NEC)議長を務めたローレンス・サマーズ氏も、「今こそ政府はさらにカネを借りるべきときだ」と題してこの6月に発表した論文で同様の進言をしている。大統領も一般教書演説で、財政出動によるインフラ整備を中心とした雇用創出策の実施を2年連続で強調している。欧州連合(EU)も6月、12兆~13兆円規模の財政出動でインフラを整備し雇用を創出する成長戦略をまとめている。

日本がデフレからの脱却と経済成長を目指すのであれば、欧米と同様に財政出動を柱とした成長戦略を立案すべきではないのか。

だが、多くの識者たちはこの15年、「規制緩和で民間活力を活用し成長せよ」と叫び続けてきた。残念ながら、それは誤った思い込みである。そもそも、規制緩和で効率的な大企業がさらに拡大すれば、同業他社が各地で倒産し、デフレ不況は深刻化する。愚かしいことに、この単純な理屈を大半の識者たちが理解していない。しかし、その無理解こそが、デフレ下での規制緩和を加速させ、デフレ不況を深刻化させたのである。

あるいは、彼らは「政府の借金が増大した今、財政出動など論外だ」と言うかもしれない。その見解にはしかし、大局観が欠落している。そもそも財政を悪化させた重大原因がデフレなのであり、それ故、デフレ脱却こそが抜本的な財政改善策なのだ。今求められているのは「損して得取る」戦略なのであり、それを避ければ、現在のジリ貧を続けざるを得ない。

≪大震災復興と巨大地震対策≫

では、わが国は何を対象に、政府支出を増大すべきなのか。その答えもまた、いたって簡単だ。

第一に、東日本大震災に対する大規模な復興事業であり、次に、最悪で計45万人の人命の損失と500兆円を超す致命的な被害が危惧されている首都直下地震・南海トラフ地震に備えた大規模対策、すなわち「国土強靱化」である。

首都圏を含む太平洋側諸都市で徹底的な防災対策を実施するとともに、想定被災地の都市施設を少しでも多く“疎開”させたり地方に分散させたりするため、効果的な投資を行うのである。年間10兆~20兆円規模の財政出動を10年ほど継続すれば、わが国は強靱になって致命傷は避けられ国家の存続を期することが可能となろう。

この規模で強靱化を図れば、欧米が企図しているように「国中の仕事総量」が増え、デフレ脱却と経済成長も可能になり財政も健全化することは言うまでもない。

つまり、「強靱化」が「富国」につながるという構図である。

この「富国強靱」こそが、今日の日本に求められている国家の大方針なのであり、この富国強靱なかりせば、少子高齢化問題もデフレも乗り越えること能わず、日本の凋落は決定的になるに違いなかろう。ひとりでも多くの国民が、この大局観をその心眼で理解されんことを切に願うものである。(ふじい さとし)