「規制緩和」は景気の改善でなく「悪化」をもたらす!

日刊ゲンダイ 2012年11月9日

日本経済の「虚」と「実」~新聞報道に騙されるな!~⑲

「規制緩和」は景気の改善でなく「悪化」をもたらす! 


京都大学大学院教授 藤井聡


日本は今,倒産や失業が相次ぐ激しいデフレ不況だ.そして,この不況を打開するために,多くのメディアや政治家,エコノミストは,何らかの成長戦略が必要だと主張し続けている.例えば民主党政権は,とにかく「規制緩和」すれば成長できる,という「新成長戦略」なるものを公表している.この考え方はかつての小泉・竹中改革の焼き直しでもあるし,「グレートリセット」を掲げた日本維新の会の橋下氏も同様の主張を繰り返している.

しかし残念ながら,この失われた10年,20年の間に実に様々な「規制緩和」が進められたのに景気は一向に改善していないのが実態だ.それがなぜかと言えば,今日の様な不況下では,規制緩和は景気を改善するどころか悪化させるのが「道理」だからだ.

小泉・野田・橋下達は「消費を邪魔する規制を無くせば人々はもっと消費する!」と主張する.しかし消費が伸びない根本原因は,不況で人々の給料が減っていることだ.しかも「先行き不安」のために人々は貯金を殖やし,消費を控えてしまう.だから,不況下では,どんな規制を緩和しても消費はさして増えはしない.

あるいは彼等は「投資を邪魔している規制を緩和すれば,民間投資が進んで景気は回復する!」と主張する.しかし彼等は,そんな投資で出来あがる「最新式の工場や商業施設」が,結局は他の企業の「客」を奪い取り,倒産や失業を増やし,不況を深刻化させる,という「自明の帰結」を見過ごしている.

つまり,不況下での「規制緩和による競争激化策」は,客を大きく増やすことが無いばかりか,倒産や失業が増やし,不況をより深刻化させることとなるのがオチなのだ.だから不況の脱出には,倒産と失業を防ぐ何らかの「保護」という「規制の維持・強化」が求められているのである.一方で「規制の緩和」は,傷に塩を塗るような愚挙にしか過ぎないのだ.

規制緩和こそが経済成長策だと何十年も言われ続けた今日,以上の指摘を「キツネにつままれた様な心持ち」で読まれた読者もおられるかも知れない.しかし,規制緩和が経済成長をもたらすのは,工場等が不足する「好景気」の時なのである.デフレ不況という病に冒された日本に必要なのは,規制緩和による「競争」なのではなく,基礎体力を取り戻すための保護施策に基づく「安静」なのである.

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