「竹中平蔵氏の国土強靱化批判」を「分析」する

11月 30, -0001 by 未分類 1 Comment

日刊建設工業新聞、所論緒論、2014年8月29日

「竹中平蔵氏の国土強靱化批判」を「分析」する 


京都大学大学院教授・同大学レジリエンス研究ユニット長 藤井聡


本年6月4日、自民党は、国会に「国土強靱化基本法案」を提出した。この法案は、近い将来に高い確率で首都圏と西日本を直撃する巨大地震への対策を図るためのものだ。そして、自民党の茂木政調会長からは「10年で200兆円の事業費で強靱化対策を図る」ことを予定している旨が主張されている。そして、その公的な財源については国債を基本として調達する一方、その投資を通してデフレ脱却を図る事が検討されている。

そして公明党やたちあがれ日本も同様の政策を主張を示しており、前者は100兆円、後者は300兆円の「公費」に基づく公共投資の必要性を打ち出している。

この政界の動きについては、マスメディアで様々な批判が散見されるようになってきた。

そんな批判の主要なものの一つが、8月16日に日本経済研究センターのホームページにおける「竹中平蔵のポリシースクール」で公表された「“国土強靱化政策”をどう受け止める?」という、竹中平蔵氏の原稿だ。

強靱化批判は様々な論者が口にしているものの、反論する水準に達していないような稚拙な批判も少なくはないのが実態だ。しかし竹中氏は元国務大臣であり、その影響力も当然ながら大きいものであることから、本稿では竹中氏の批判を紹介しつつ、その批判を、改めて「分析」「解釈」することとしたい。

竹中氏はまず、6月16日付日本経済新聞の「大機小機」の中で指摘されている次の3つの、強靱化批判を紹介し、「どれも確かに適切な指摘」と「明言」している。

その3つとは、「①今や、地域のあり方は地域自ら考える時代であり、時代遅れだ」「②地域の個性を生かす時代であり全国で同じような地域づくりをしてはいけない」「③公共投資依存型の成長を目指しているが、1990年代の経験に基づけば、こうした政策は持続可能ではなく、財政赤字という負の財産を残す」というものである。

しかしこの批判は、竹中氏が言う様な「適切な指摘」とは到底言えない代物だ。

そもそも国土強靱化は「巨大地震対策」の政策なのであるから、①や②の批判を差し向けること自体がナンセンスだとしか言いようがない。それに当該基本法では「全国一律の地域づくりをする」「地域自らが考える事を否定する」とはどこにも書かれていないのであるから、①②は批判として「的をはずしている」と言わざるを得ない。

③について言えば、デフレ脱却のためには積極財政とそれを支える金融政策が不可欠であり、それによるGDPの成長こそが財政改善をもたらすということは、「世界の経済政策担当者の常識」である(たとえば、竹中氏の知人であるノーベル経済学賞受賞者クルーグマンが著した『さっさと不況を終わらせろ』等をご参照願いたい)。さらに言うなら、日経が指摘する「90年代の経験」については、筆者の統計分析より、中央政府の公共事業は、確実にGDPの縮小を防ぎ拡大をもたらしていた、という「事実」が「実証的」に明らかにされている(詳細は筆者HPをご参照願いたい)。つまり、③の指摘もまた、完全なる「事実誤認」に基づく「的はずれ」な指摘なのだ。

竹中氏は、以上に加えて、強靱化には「既存の資本ストックを活用するという視点がない」という批判を加える。これもまた「的はずれ」な指摘だ。既存ストックの有効利用はもちろん大変結構な事だし、強靱化対策の中でそうすればいいところだが(実際、強靱化基本法ではそれを一切否定していない)、それだけで適切な巨大地震対策をする事などできるはずもない。

その他にも、いくつもの疑義のある指摘が繰り返されているのだが、それらの「批判」はいずれも、「国土強靱化対策は、最悪、数百兆円の経済被害と50万人を上回る犠牲者が危惧されている巨大地震対策なのだ」という一点を見過ごしていることに起因しているように思う。

要するに竹中氏の強靱化批判は、これまで繰り返されてきた「公共事業批判」を焼き直したものに過ぎないのであって、「国難と言うべき巨大地震への対策」に対する「批判」とはなっていないのが実態なのである(なお、その「公共事業批判」自体についても、上記③に対して述べたようにも「的はずれ」なものが散見されるのであるが)。

しかしそれは、竹中氏だけに言えることなのではない。それは、彼が引用した日経新聞の批判もそうであったのだし、テレビや新聞で繰り返されている強靱化批判の多くに共通している重大な欠陥なのである。

是非とも多くの有識者、マスメディアの皆さんには、今、日本がどれだけ巨大な巨大地震リスクに晒されているのかを真正面から誠実にご認識いただきたいと切に願う。そしてその上で、一定の予算と時間の制約中で、どの様にすれば効率的、効果的に強靱化が果たすことができるのかという建設的な視点でのご批判を心から願いたいと思う。