京都大学 都市社会工学専攻藤井研究室

京都大学大学院工学研究科 都市社会工学専攻
交通マネジメント工学講座 交通行動システム分野

日本の総力を挙げた「列島強靭化」目指せ

日刊建設工業新聞 2011年5月23日(所論緒論)

日本の総力を挙げた「列島強靭化」目指せ 


京都大学大学院 都市社会工学専攻 藤井 聡


かの東日本大震災は我が国に激甚なる被害をもたらし、未曾有の原発事故を誘発すると共に日本の国力に深刻なダメージをもたらした。この状況を目の当たりにした多くの日本人は、我が国が今、まさに国家の存亡の危機に直面していることを直感していることだろうと思う。

しかし、冷静に我が国が置かれた状況を見据えれば、「真の国難」はまさにこれから始まろうとしているという様子がありありと浮かび上がる。なぜなら、今回の震災の被害を遙かに上回るさらなる自然災害が、連発して我が国を直撃する公算が極めて濃厚だからである。

そもそもこの度の大震災発生以前の時点ですら、損害が112兆円にも上ると言われていた「首都直下型地震」の30年以内確率は70%であり、損害総額81兆円と言われている「東海・南海・東南海地震」の30年以内確率は50~87%であった。しかも、この確率は、今回の大地震によって跳ね上がっている公算が高い。

事実、これまでの過去二千年の間に、東日本太平洋沖でM8以上の巨大地震は4回起こっているのだが、その内の3回において東海・南海・東南海のいずれかにて同じくM8クラスの巨大地震が18年前後の間に連発している。そして、首都直下型地震に至っては、その4回のM8以上の東日本太平洋沖での地震のうち、なんと4回「全て」において、10年前後の間に「連発」しているのだ。

つまり、この度の東日本大震災は、我が国が直面している「真の国難」の、単なる「前兆」にしか過ぎない可能性が、残念ながら、極めて高いのである。

そうである以上、もしも我が国の存続を願うのなら、我が国は、日本国家の総力を挙げて今回の震災の復旧・復興に取り組むと同時に、そのあらん限りの「余力」をもってして、迫り来る「超巨大地震」に対する対策に取り組まねばならないのである。

その時に我々が目指すべきは、かの田中角栄が提唱した「列島改造論」のヴィジョンでは決してない。それはあくまでも巨大地震が生じない「平時」を前提とした上で欧米列強に追いつき、追い越す事を目標としたビジョンだったからだ。我が国が今目指すべきは、数百兆円規模もの損害をもたらすであろう超巨大自身の連発という、「有事」の勃発を想定し、そんな数々の国難をも乗り越えることができる「強靭な国家」をつくりあげることなのだ。

そのために為すべきことは多い。徹底的なインフラの強靭化と、一人でも多くの人命を救うための「リスク・コミュニケーション」の推進は不可欠だ。それと同時に、まさかの有事の際にも助け合うことができる、一つ一つの町・村における「コミュニティの再生と強化」も必要だ。さらには、まさかの有事を想定した、「冗長」な(つまり、一部が破壊されても“スペア”がきくようにシステムを二重化三重化し、分散化した)エネルギー・交通システム、経済・産業構造の構築と、同じく有事を想定した各企業のBCPの徹底的な策定・推進も不可欠だ。国家の中枢である政府機能の確保、そして何より、あらゆる有事を想定した上での皇室の皆様方の安全の確保は、日本国家の存続のために絶対保障しなければならない最重要課題だ。

こうした諸対策を通じて、どんな有事が生じようとも、1)国家としての致命傷を避け、2)被害を最小化し、その上で3)迅速な被害の回復を図る、ことができる体制を、たとえば「10年程度」の年限をかけて作り上げねばならない。これこそが、「列島強靭化」と筆者が呼ぶ取り組みの内容なのである(詳細は、拙著『列島強靭化論』[文春新書]をご参照願いたい)。

一人でも多くの、あらゆる階層の国民に、今、我々が直面している真の国難の危機が理解されんことを、そしてそれに向けた対策を大規模、かつ、迅速に始められんことを、心から祈念したい。