プライマリーバランスを過剰に重視するのは政府の「責任放棄」だ

11月 30, -0001 by 未分類 No Comments

日刊ゲンダイ,2012.10.12

日本経済の「虚」と「実」~新聞報道に騙されるな!~⑮

プライマリーバランスを過剰に重視するのは政府の「責任放棄」だ

京都大学大学院教授 藤井聡

読者各位は「プライマリー・バランス」(以下,PB)という言葉を大手新聞等で目にされる事があろうかと思う.これは中央政府の歳入と歳出のバランスのことで,これが悪化すれば政府の「借金」は増えていく.

だから多くの識者や記者,政治家達は「PBを改善すべし」と声高に叫んでいる.例えば日本維新の会の「維新八策」は,このPBの改善を「最も」重要な財政方針として掲げている.

多くの国民はこのPBの改善方針については,違和感なく理解しているものと思う.筆者もまたPBの改善という目標を,政府が持つべき多様な目標の一つとして掲げる事自体は,当然の事であると考えている.

しかし,「維新の会」の様にPBの改善「だけ」を過剰に重視するのは,政府による巨大なる「責任放棄」を意味していることを,我々は知らねばならない.

そもそも「政府」の目標は,国民国家を守り,国民の安寧と幸福を実現する事である.当たり前だ.そしてPBの改善が,この国家の大目標のために求められる場合もある.その場合はPBの改善を目指すべきだ.しかし残念ながら,PBの改善が国民に巨大な被害をもたらす場合もあるのだ.

典型例が「戦争」だ.侵略された時にPBの悪化を恐れて無為無策を決め込めば,国自体が亡びる.「大震災」も同じだ.今日の様に一千兆円を越える様な巨大地震の危機が間近に迫っているにもかかわらずPBの悪化を恐れて防災/強靱化を怠れば,結局大量の国民が殺められ,巨大な国富が消滅する.今日の「デフレ大不況」も同様だ.大不況を克服するために,高橋是清やルーズベルト大統領の様にPBの改善を一旦さておいて巨大な財政出動を果たさねば(例えばかつての大国アルゼンチンやスペインの様に)永遠に復活できぬ水準までに国力が凋落し,PBの改善それ自体も不可能となる.

つまり,大不況に苛まれ,大震災の危機に直面した今日,PBの改善を過剰に重視する「維新の会」に典型的に見られる態度は,大量の国民を見殺しにする巨大な「国家的犯罪」に等しいのだ.今日我々は危機の時代に生きている.この大局を忘れ去り,局所的なPBにばかり気を取られる政治は国を滅ぼす以外にない.この一点を,国民には是非深くご理解願いたいと思う.