京都大学 都市社会工学専攻藤井研究室

京都大学大学院工学研究科 都市社会工学専攻
交通マネジメント工学講座 交通行動システム分野

「維新八策」の道州制は「地方見殺し策」そのものである

日刊ゲンダイ,2012.9.22

日本経済の「虚」と「実」~新聞報道に騙されるな!~⑫

「維新八策」の道州制は「地方見殺し策」そのものである


京都大学大学院教授 藤井聡

橋下大阪市長の「維新八策」の中の第一項目が「統治機構の作り直し」であり、その中の目玉施策が「道州制の実現」である。

多くの国民はこの疲弊した現状を打開するには「地域の活力」の活用が重要で、それを活性化させるためにも「道州制」が良いのではという「イメージ」をお持ちなのだと思う。

しかし考えていただきたい。

「イメージ」と「現実」が乖離することなど誰の身にもいくらでもあったことだろう。だから「道州制」の是非を真面目に考えるためには、その時どうなるのかを、イメージに基づく先入観を全て排除して冷静に考えていくことが求められているのである。

例えば道州制は、鳥取県や福島県や京都府といった府県の「全て」が無くなることを意味している。その結果、現在の福島県民は「福島人」というアイデンティティを失い、多くの「福島人」は福島に固執しなくなると共に、福島市の行政機能の多くは州都仙台に「移転」されることとなる。そうなれば結局、「福島」の人々は東北の中心地である仙台に移り住む傾向が高まろう。そしてそれは福島だけでなく東北全域で起こり、東北における仙台への一極集中が加速するのである。

同様の事がそれぞれの州に於いて生ずる。九州において福岡、中国では広島、関西では大阪への一極集中が加速し、結果、各州に於いて、州都とそれ以外の都市との格差が一挙に拡大するのである。

そもそも、それは今日の北海道を見れば一目瞭然だ。

もともと北海道は函館や根室等を県庁とする様な複数の「県」に分割されて然るべき地域だ。しかし政府の方針で道州制が導入され、県の概念が否定された。結果、大正時代には北海道のたった数%の人口しかいなかった札幌には今や、現在では4割もの人口が集中している。この事実を踏まえるなら、道州制に向けた橋下維新は、地方を活性化させるどころか都市間の格差の拡大を加速させ、弱者を切り捨てていく施策に他ならないと言うことができるのである。

いずれにしても、一人でも多くの国民と政治家、専門家に、「道州制導入に内在している国益毀損効果」をじっくりと考えていただきたいと思う。さも無ければ、日本の亡国は刻一刻と近づいて来ることになるだろう。兎に角どんな状況下でも、政治は断じて「イメージ」で決めてはならないのである。