藤井聡:消費税増税確定を繰り返す新聞報道に騙されるな!

日刊ゲンダイ,2012.8.17

日本経済の「虚」と「実」~新聞報道に騙されるな!~⑦

消費税増税確定を繰り返す新聞報道に騙されるな!

京都大学大学院教授 藤井聡

 

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8月10日、「消費税増税法」が成立した。これを受け、新聞各社は次のように大々的に報道した───『2014年4月に8%、15年10月に10%になる 』(朝日新聞)、『一体改革関連法成立、14年度から消費税8%に』(読売新聞)、『消費増税法が成立 14年4月に8%、15年10月10%』(日本経済新聞)、『消費増税法:成立 2014年4月から8%』(毎日新聞)、『現行5%の消費税率は平成26年4月に8%、27年10月に10%へ2段階で引き上げられる』(産経新聞)。

これだけ繰り返し報道されれば「増税は確定した」と大半の国民が信ずるのも当然だろう。

しかし───この事は本連載の第一回の記事でも強調したが、消費増税法が成立しても、未だ増税は「確定事項」ではないのである。

極めて重要なことなので、今回も繰り返し指摘したい。この法律の付則第十八条には、時の政権が景気の動向を加味した上で、増税の可否を「判断」することが明記されている。

つまり、判断することが確定しただけであって、その時点で増税をするという判断内容が確定したわけではないのだ。

無論この条文だけでは、デフレ下の増税に対する「完全なる歯止め」にはならない。時の政権が「景気には配慮しましたよ」と嘯きながら、勝手に増税してしまうことは「可能」だ。しかしそれでもなお、文字通り付則第十八条に一言も触れずに、増税が確定したかの様に繰り返す報道は、絶対に看過できぬおぞましき天下の大罪だと断罪し得る様な代物なのだ。

そもそもこの付則第十八条をきちんと報道すれば、「デフレ脱却までは増税反対!」という世論が形成され、それを通して増税が阻止される未来は十二分以上に考えられるのである。にも関わらず「増税が確定した」という報道を繰り返せば、そういう世論が形成されず、実質的に増税が確定してしまうではないか。

つまり、今の報道姿勢は、「未確定の未来の増税」を「確定化」させるものに他ならないのである。

であればこそ、今こそ、本連載タイトルである「新聞報道に騙されるな!」との言を、声を大にして叫ばねばならぬ時なのである。真っ当な政治を取り戻すために、一人でも多くの国民が大手メディアの虚構性を見抜く力をその身に携えられんことを、そして、一人でも多くのメディア関係者が真っ当な報道をなさんとする意志の力を取り戻されんことを、心から祈念したい。

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