藤井聡:増税以前に、「未納者」からきちんと取り立てるべし

日刊ゲンダイ,2012.8.10

日本経済の「虚」と「実」~新聞報道に騙されるな!~⑥

増税以前に、「未納者」からきちんと取り立てるべし

京都大学大学院教授 藤井聡

 

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先週も紹介したが、増税反対論の中に、「増税の前に、政府支出を削れ!」という根強い意見がある。しかし、政府支出を削れば、デフレが悪化し、かえって税収が減少することが危惧される以上、増税の前に為すべきことは政府支出の削減などでは断じてない。

「デフレ脱却」こそが,増税の前に為すべきことなのだ。

しかし、万一,今,仮に「デフレ脱却」ができたとしても、そんな増税の前に為すべき,極めて重大な政府の仕事がある事を忘れてはならない。

それは、税金・保険料等の「未納者からの取り立て」だ。

例えば,あるレポート(浜銀総合研究所,2001年)によれば,課税を免れているいわゆる「地下経済」の規模は,5~23兆円程度と推計されている.もしここから税を取り立てることができるなら,年間で最大3~4兆円程度の税収を上げることが可能となる.あるいは現在,国民年金保険料の未納率が40%を超え,厚生年金保険料の滞納企業が全体の9%を超えている.この未納金がきちんと支払われれば,毎年数兆円から10兆円程度もの保険料が得られるのではないかとも指摘されている.

無論こうした未納金を,今すぐ完璧に徴収することは容易ではない.しかしだからといってこれを「放置」して言い訳がない.とりわけ真面目に税金を払っている人達を「だけ」を狙い撃ちして「増税」するなら,それ以前に未納金を徴収する,あるいは少なくともそのための最大限の努力をするのが,どう考えたって「筋」だろう.

ではなぜこんな「理不尽」がまかり通っているのかと言えば,それは偏(ひとえ)に,多くの国民がこの「事実」を知らないからだ.

もし多くの国民がこの事を知れば,つまり,「真面目に税金払ってんのに払ってない奴がいる」にも関わらず,「払ってない奴からカネを取るのが面倒だから,真面目に払ってる奴から搾り取った方が手っ取り早い」と言わんばかりの政府の振る舞いこそが,この度の増税論なのだという事を知れば,国民は大きな憤りを抱くに違い無かろう.

すなわち,政府の増税論は,「国民の無知」につけ込むものだと解釈する事は十二分に可能なのである.

兎に角,政府は増税「以前」に,未納者からきちんと徴収する仕組みをつくりあげねばならない.そして国民はこの明々白々な自明の理を理解し,政府主導の増税論の「暴走」を止め,理性的な財源・金融・経済論を組み立てんとせねばならぬのである.

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