藤井聡:「強靱化」を巡るあらゆる「誤解」と戦うべし

自由民主党機関誌 『自由民主』2520号,平成24年8月7日号

短期連載(全四回) 「強靱化」で勝つ! (その3) 

「強靱化」を巡るあらゆる「誤解」と戦うべし 

 

京都大学大学院教授・同大学レジリエンス研究ユニット長

藤井聡

 

自由民主党の基本政策に国土強靱化が掲げられて以来,メディア各社は「自民党,200兆円で強靱化」との報道を行い,評論家等から様々にコメントが寄せられている.

言うまでもなく,これまでさんざんに公共事業を否定的に国民に伝え続け,国家財政破綻を喧伝し続けてきた各メディアや評論家達が,いきなり大規模な財政出動に基づく強靱化に全面的に賛成するというような事など常識的に考えてあり得ない.事実,案の定,強靱化に対する様々な「否定的」な報道やコメントがしばしば見かけられるようになった.

当然ながら,国家政策を預かるものは,虚心坦懐,様々な批判に耳を傾け続ける義務がある.だからこそ,強靱化に対するあらゆる批判は,一旦,しっかりと受け止めねばならない.しかしながら,明々白々な「誤解」や「誤謬」に基づく批判であるのなら,徹底的かつ正々堂々と答える事こそが,政治の王道である.

ついては本稿では,そんなメディアや評論家達の強靱化批判の中でも,とりわけ代表的なもの4つのものについて,簡潔に答えてみることとしたい.

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「シロアリがたかる」のが問題だからといって,それを理由に強靱化するのを止めたら,大地震で何十万人という人々が死ぬことを放置することになるじゃないか.そんな事を放置してもいいのか?だったら,シロアリ云々の問題があるとするなら,そんな問題が生じないように最大限の注意を払いながら,きちんと「強靱化」するための事業を徹底的に行えばいいじゃないか.シロアリの問題を盾にとって,何千何万何十万という国民を見殺しにしてもいいのか?!

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「強靱化」は,国民の命と財産を守るために必要だと言ってるんだ.そのためにオカネがかかるのだと言ってるだけであって,オカネをばらまくために防災のための公共事業を無理から主張してるわけじゃないのが分からないのか?!例えば,あなたの家の耐震補強をするために大工さんにオカネを払うのはバラマキだ,なんてあなたは言うのか?目的ある投資は,断じてバラマキなんかじゃない!

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財政破綻なんて言うが,あなたはひょっとして「財務省が公言」しているように,日銀がある限り「円建ての国債の発行」で破綻するなんてことは,常識的にあり得ないのを「知らない」のか?万一「国債暴落Xデー」が訪れそうになっても,その時に売りに出された国債を日銀が全て買い取ると毅然と宣言すれば(そして実際にその宣言通りに「最後の買い手」としてきちんと買い取れば)暴落を防げるじゃないか.まさかそれで「ハイパーインフレ」になるとでも思っているのか?デフレの今,数百兆円程度の買いオペでハイパーインフレなんてあり得ないという自明の事実を「理解できない」のか?とにかく国債を日銀が全て買い取ればいいだけじゃないか.それは,人間の力では絶対に防ぐことの出来ない「震災Xデー」を防ぐよりも,何百倍,何千倍も簡単な事ではないか!

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デフレ不況の今,経済成長のために一番重要なのは,全国で倒産しかかっている企業を救い,失業者を減らすことだっていう常識を「知らない」のか?そしてそんなデフレ不況を克服するには,政府による財政出動が不可欠だというのが世界の常識,グローバル・スタンダードだってことを「知らない」のか?さらに言うなら,リーマンショック後,アメリカも欧州も中国も皆,大規模な財政出動をやって,何とか不況を防いだという現実をあなたは知らないのか?

───以上,いかがであろうか.各種の討論会をはじめ,強靱化を巡る議論で十分な時間が与えられるとは限らないのが実態だ.ついては強靱化を巡る様々な「誤解」と戦うにあたって,上記の様な簡潔な反論を一つの参考事例としてご活用願えれば幸いである.

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