藤井聡:まだ増税は決まっていない:国民がマトモな政権を選べば止められる

日刊ゲンダイ,2012.7.6.


日本経済の「虚」と「実」~新聞報道に騙されるな!~①

まだ増税は決まっていない:国民がマトモな政権を選べば止められる 


京都大学大学院教授・同大学レジリエンス研究ユニット長 藤井聡


先月26日、消費税増税法案が衆議院で可決された。大手メディア各社はこれを受けて「2014年4月に消費税率を8%、15年10月に10%に2段階で引き上げる消費税増税は実現する方向となった」「消費税率は…..引き上げられる見込みだ」「法案では消費税率を…..引き上げる」など、さも増税が確定するかの様な報道を繰り返している。だから増税はもう実質的に決まってしまった──と勘違いしている国民が大半ではないかと思う。

しかしそれら報道はいずれも「誤報」といって差し支え無き程に事実から乖離している。

そもそもこの法案の第十八条(いわゆる景気条項)には、景気の動向を加味した上で、時の政権が増税するかどうかを「判断」することが明記されている。具体的にはこうだ。「経済況等を総合的に勘案した上で…..その施行の停止を含め所要の措置を講ずる」。持って回った言い方だが要するに、景気対策をしっかりする(=所要の措置)ことはもちろんのこと、消費税増税で景気が悪くなりそうなら「施行の停止」=「増税なんかしない」ということがあり得ると明記されているわけだ。

もちろん例えば「ネバーギブアップで増税をしたい首相」なら、景気がどうであろうと「総合的に勘案しました」と(うそぶ)いてさっさと増税するだろう。しかし、時の政権が不況下でのデフレの愚かしさを十二分に理解しているなら、現下の経済状況では増税なぞという愚かな判断はあり得ない。

要は、増税するか否かは、時の政権の見識、とりわけ増税に対する理性的態度一つにかかっているわけだ。

さて現・野田首相は、どれだけ延命できたとしても総選挙がある以上、最長で来年の夏まで、早ければ年内である見込みが高い。つまり、(仮に法案が成立しても)増税するか否かは、遅くとも来年夏に誕生する新政権の判断に全て委ねられているのだ。

そうである以上、日本国民は今、次の総選挙に向けて上記の様な世間に流布された数々の虚事(そらごと)(ウソ話)に惑溺されず、正しき認識に基づいて、ウソに(まみ)れた邪説と真っ当な真説とを「見抜く」力を身につけねばならない。そしてその正しき認識に基づく世論を形づくり、真っ当な政権の誕生を期さねばならない。さもなければ、(よこしま)な政権によってデフレ下の増税を含む数々の誤った判断が下され、平成日本の夜明けは二度と訪れないだろう。本連載では来週からもまた、読者各位がそんな力を身につけられん事を支援すべく、様々な「嘘と誠」を一つずつ明らかにしていきたい。

以上

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