京都大学 都市社会工学専攻藤井研究室

京都大学大学院工学研究科 都市社会工学専攻
交通マネジメント工学講座 交通行動システム分野

参議院予算委員会 公聴会 藤井聡公述人 公述録(平成23年3月23日)

参議院予算委員会 公聴会 藤井聡公述人 公述録

(平成23年3月23日)

注) ~~を記載した部分は、事後的に適宜付与した見出しである

~~日本は復活する~~

この度は斯様な機会を頂戴いたし、誠にありがとうございます。

ただいま菊池先生が公述なさいました大規模の財政出動、この財政出動のお話をお聞きしながら、私の方からお話したいと考えておりましたのが、先ほど菊池先生がおっしゃった大規模な財政出動の中身、この部分をこの度の大震災をうけて申し上げたいと考えております。

そしてこの度の東日本大震災において犠牲になられた方々のご冥福をお祈り申し上げると共に、被災地の方々に、改めて、お見舞い申し上げたく存じます。

言うまでもありませんが、今何よりも、なすべきことは、被災地の方々に対する救助、救援であります。そしてそれと同時に、我々日本人は、この国難の危機を回避するための方途を、全力で、考えはじめねば、なりません。

ところが、ともすれば、日本はこの瀕死の重傷から、立ち直ることができないのではないか、という様な、漠とした不安、ある種の絶望感をお持ちの方も、少なくはないのではないかとも感じております。

しかも、地震の専門家は、30年以内に、今回のこの大震災の被害をさらに上回るとさえ言われる東海・南海・東南海の各地震が起こる確率が50~87%もあることを明らかにしています。

さらに、この度の大震災の「何倍もの被害」をもたらすであろう、「首都直下型地震」が30年以内に起こる確率が、実に「70%にも上る」ことを明らかにしています。

折しも日本は、かつて世界第2位であった一人あたりのGDPが、長年のデフレ不況のためにいつのまにか20位前後にまで凋落し、経済大国の地位そのものがぐらつき始めているところでありました。

その弱り目に祟り目と言わんばかりに、この度の、巨大震災が、襲ったのであります。そして、さらなる巨大地震の影にも、おびえている、それが、今日の、日本の、ひ弱な、悲しい姿であります。

しかし、それらを全て踏まえてもなお、私は、確信していることがございます。

それは、ここでうろたえず、状況を冷静に判断しつつ、なすべき対策を行うことさえできれば、この国難の危機を回避し、必ずや、我が国は復活できる、ということであります。そして、どのような「国難」をも乗り越えられる様な「強靭な国家」になることができるのだということであります。

では、そのためには、どういう対策が必要なのか。今からそれについてお話いたしたいと思います。

 

~~「強靱さ」を目指した復興を~~

そもそも、我々日本人は、先の大戦の敗戦後の時代を「戦後」と呼び、「列島改造論」に象徴されるような、「豊かになる!」とのビジョンを掲げ、今日まで努力を重ねて参りました。

そして、豊かさの頂点を極めたバブルが崩壊した後もなお、「豊かさ」に変わる、新しいヴィジョンを持てないままに、今日に至っております。

しかしその間、日本経済はデフレのために凋落し続け、失業率も自殺者数も飛躍的に伸びてしまいました。

そんな時代に、高度成長もバブルも知らない新しい世代が求めているのは、今や既に「豊かさ」ではなく、「生き残ること」そのものとなっていったのです。

それと同時に多くの国民が、リストラや倒産の影におびえております。ここでもまた、多くのの人々が「豊かさ」ではなく「生き残ること」を求めているのです。

そんな時代のただ中に起こったのが、今回の大震災でありました。

そして、この大震災によって、今や、自分自身のみでなく、街や村、そして、日本そのものが「生き残ることができなくなるのではないか」との漠とした不安に、日本中が、決定的に被われることになったのであります。

つまり、我々が、求めているのは、かつて求めていた「豊かさ」では、既にないのです。今必要なのは「何があっても亡びない、永続的な繁栄を続けうる、強靭さ」なのであります。言うならば、「豊かさ」を追い求めた「戦後復興の時代」が、かの3月11日に決定的に終焉したのです。

そして、我々は今、「強靱さ」を目指した、「震災復興の時代」のただ中に、生きることとなったのであります。

だからこそ、「豊かさ」を求めた「列島改造論」に変わる、新しいヴィジョンとして、数々の巨大震災をも乗り越えることの出来る「強靭さ」つまり英語で言いますところの「レジリエンス」、この「レジリエンス」を求める、「列島強靭化論」を、ここに、強く、提案申し上げる次第であります。

~~日本復興計画~~ 

お手元にお配りしておりますのが、「日本復興計画」の資料でございます。さて、この「列島強靭化論」でありますが、その内容を、「日本復興計画」という「緊急提案書」にまとめております。委員の先生方にはお配りいたしておりますが、国民の皆様も、当方「藤井聡」のホームページにて、公表しておりますので、是非、ご覧ください。

この緊急提案は、二つの計画から構成されております。

一つは、「東日本復活五年計画」、もう一つは、「列島強靭化十年計画」であります。

つまり、5年をかけて東日本を復活し、10年をかけてどんな危機をも乗り越えられる強靭な国家をつくりあげる、それを目指すわけであります。

 

~~ふるさと再生~~ 

まず、前半の「東日本復活五年計画」でありますが、これは、東日本の産業、経済、社会を5年で蘇らせることを目指すものです。

そのためには、国、自治体、民間等の日本の総力を挙げた復興活動が不可欠であります。一日も早い居住環境、生産基盤の復旧を、急がねばなりません。

そしてこの復興が目指すべきヴィジョンは、「ふるさとの再生」であります。東日本は、我が国日本のふるさとの象徴であります。だからこそ、日本の永続的な繁栄を企図する以上、この「ふるさと」は、絶対に取り戻さなければならないのであります。

さて、この「ふるさとの再生」にあたっては、「直接的な救済」はもちろんのこと、「就労支援型の救済」を行うことが重要であると考えます。

つまり、例えば食料や物資を直接援助する、という形の救済に加えて、救済のための事業を興し、雇用を創出し、その雇用の機会を、被災者の方々に提供申し上げるわけであります。

これによって力強い、ふるさとの再生を目指すのであります。

そして、そうした雇用の機会を創出する一つの仕組みとして、「東日本ふるさと再生機構」の設立、これを提案いたしたいと思います。

例えば、この機構を、東日本の復活までの時限付きのものとして、国が主体的に出資する法人として、様々な復興事業を推進していくわけであります。

なお、こうして創出された、例えば、数万規模の雇用機会を、被災者の方々に加えて、ふるさと再生を願う、全国の若者達をはじめとした皆様に提供することも考えられます。

~~財源論~~

さて、国や自治体、あるいは、上記のような機構が行う諸事業のためには、総額で、何十兆円という予算が必要となります。

しかし、今の日本には、そんなオカネはない、とお考えの方もおられるかもしれません。

しかしそれは、既に菊池先生がお話になったように、完全なる「事実誤認」であります。

菊池先生がおっしゃった通り、デフレ下にある我が国では、資金需要が冷え込んでおり、銀行では、皆さんの預貯金の内、150兆円以上ものオカネについて貸し付ける相手が民間に見あたらず、その結果、国債しか運用方法がない、というような状況になってしまっているのであります。

そのせいもあり、長期金利は低くなっております。しかも、我が国の国債は「自国通貨建て」で、かつ、「9割以上が内債」という事実を踏まえますと、いわゆる「破綻」という状況からは、完全に、程遠い状況にあるというのが我が国の実態なのです。

言い換えますなら、我が国は、今「国債による財源調達」が完全に、可能な状況にあるわけです。

ただし、国債発行によって、少なくとも一時的に、金利が上昇するリスクがあることは否定できません。しかし、そうしたリスクは、日本銀行との協調すなわちアコードを行うことで、回避可能であります。

つまり、国債発行と共に、日銀が国債を市中から買い取るオペレーション、積極的な金融政策を同時並行で行うことが望ましいわけであります。

なおその際には、適正なインフレ水準に収まるように、各種の金融政策等によって適宜、裁量的に調整していくことが必要となる点も、申し添えておきたいと思います。

その他、子ども手当等の所得移転のための財源を、被災地に移転する方法や、被災地への所得移転を促進するための、寄付金税額控除や被災地特別減税等も考えられます。

 

~~TPP~~

さて、こうした復興活動を進める一方で、どうしても避けねばならない事が1つあります。

それは過激な自由貿易の推進するTPPであります。

そもそもTPPは、デフレ下で余っている「過剰な供給分」を、海外への輸出に振り向けようとするものでした。

しかし、大震災の今、国内の「過剰な供給分」を振り向ける対象は、海外ではなく、「被災地」であることは明白であります。

さらに、東北地方は日本の食糧供給 地帯であり、今回のTPP加入によって、さらに壊滅的なダメージを受けることもまた、明白であります。

したがって、この被災地に、「TPP参加による諸外国からの安い農産品」という第二の津波が襲来すれば、ふるさとの再生どころか、ますます壊滅的な被害を被ることは必定なのであります。

そもそも、せっかく農地を復旧しようとしても、「TPPによってどうせ将来、使えなくなるんだ」という気分が支配的になれば、復興に向けた士気が、ガタ落ちになることは、これはまた明白であります。

だからこそ、被災した農業地帯が「復興」に専心できるように、「TPP交渉不参加の 決定の 明言」が、是が非でも必要とされているのであります。

こうした理由から、政府が東日本の復興を目指すと言うのなら、それとは逆方向のTPP参加は、絶対に避けなければならないのであります。

~~列島強靭化10年計画~~

さて、以上の東日本復活5年計画と平行して、日本の永続的な繁栄を期する「列島強靭化10年計画」を強力に推進することを提案いたします。

もちろん、初期数年間は東日本復活に注力する必要がありますが、その復活の程度に応じて生ずる余力を結集し、日本全体の強靭化を図るわけであります。

まずは、100兆円前後もの被害をもたらすと言われている首都直下型、東海・南海・東南海地震への対応が、急務であります。

それと同時に、最悪で70兆円もの被害が懸念されている首都を直撃する大洪水への対策も不可欠です。

例えば、現在中止されている八ッ場ダムをはじめとしたダム事業や、スーパー堤防事業が、「洪水対策」としても重要な意味を持つことは、工学的に、明白であります。

しかも、各地域のダムによる水力発電は、これからの「電力計画」の観点からも、重要なものとなるでしょう。

なお、原子力政策の見直しは、今回の事故の結果を科学的に分析した上で、冷静に議論されるべきであることは、一言、申し添えさせていただきたいと思います。

さらには、物流網、エネルギー・電力系統網については、平常時において過剰に効率化することを差し控え、過剰に効率化することを差し控え、まさかの被災時を想定した、二重化 等が必要となるでしょう。

例えば、東海側の大地震を想定した、日本海側の交通インフラの強化などが、必要とされるわけであります。なお、そうしたインフラが日本海側の、平時の発展に資するものであることは、言うまでもありません。

この様な、インフラシステムの強靭化に加えて、産業構造そのものの「強靭化」も不可欠であります。

まさかの被災時に、どのようにして事業を続けていくのかという計画、いわゆる、BCPの策定が、企業、自治体、国といったあらゆるレベルで必要とされています。ついては、BCP策定の義務化も視野に納めた立法的議論が必要と考えられます。

さらに、エネルギーや食料といった基本的な物資については、「まさか」の時を平時から想定し、可能な限り自給率を高めると共に、備蓄量を一定確保することも必要でしょう。

 

~~「コンクリートから人」~~

最後に、当方からの公述を終えるにあたり、どうしても申しあげなければならないことがございます。

今回の予算の中でも、かつての選挙でマニフェストに掲げられていた「コンクリートから人」への方針は、踏襲され、公共事業が大きく削られたままであり、かつさらに公共事業費が削られようとしています。

もちろん、この度の地震・津波は、例えば日本一とも言われた堤防ですら、軽々と乗り越える程の巨大な破壊力を持ったものでした。

しかし、ほとんど報道されておりませんが、「堤防によって津波から守られた街」があった事も、事実なのであります。

さらには、公共事業関係費によって進められた「リスクコミュニケーション」という取り組みの中で、「津波から逃げるべきだ」、ということを人々に地道に伝え続けた事で、あの津波から逃げることができ、助かった人々がおられたことも、事実であります。

したがいまして、「コンクリートから人へ」といった、公共事業を削減する方針がなければ亡くならずに済んだ方々が、多数おられたであろうことは間違いないのであります。

それを思いますと、かえってお亡くなりになる「人の数」が増えしてしまうような、「コンクリートから人へ」なるスローガンに基づくような予算編成などは、断じて許すことができないのであります。

さらに言いますなら、そのような、実際には破滅的であるものの、一定の集票効果が見込めるような 軽薄で 耳あたりがよい甘い「スローガン」を、「国民の生命と財産をまもるべき政治に直接・間接に関わる人々」には、もう二度と、口になさらないでいただきたいと、強く、祈念せずにはおれません。

今国会で議論されております予算案におきましても、是非とも、その点、最大限のご配慮を賜りますよう、一専門家として、声を大にして、申し上げたいと思います。

 

~~政治決断を~~

いずれにしても、東日本、そして、日本そのものの復活は、冷静に考えれば考えるほどに、十二分に可能であることが見えてまいります。

そのための財源は、我が国の中に、確かにあるのです。
そして、技術立国日本には、その技術力も、十二分にあるのです。

それを思えば、東日本、そして、日本の復活のために今、足らないものは、政治決断だけなのであります。

すなわち東日本を復活させんとする政治決断なのであり、日本を強靭な国にせんとする政治的決断こそが今強く求められているのであります。

是非とも、東日本が復活し、日本が度重なる巨大震災を含めた様々な国難をも乗り越え得る強靱な国になるための政治決断を下されんことを、改めて、お願い申し上げまして、わたくしの公述を終えたいと思います。

ありがとうございました。