デフレが「諸悪の根源」

日刊ゲンダイ 2012年11月2日


日本経済の「虚」と「実」~新聞報道に騙されるな!~⑱

デフレが「諸悪の根源」 


京都大学大学院教授 藤井聡


今の日本はデフレ不況だ.その結果,私達の会社の収益は悪化し,給料は安くなり,失業は増え,倒産は増えていく.同時に「円高」がもたらされ,輸出不振と国内企業の海外流出が導かれる(そもそもデフレ不況下ではその流通する日本円の量が減少し,必然的に円高となるのだ).さらに言うなら,デフレ不況だと消費も投資も所得も少なくなる.だから政府の税収も必然的に少なくなり,結果,財政は悪化する.政府の財政が悪化すれば政府は十分な活動が出来なくなる.そして,十分な投資も教育も研究開発も,そして社会保障も何もかもできなくなっていく.

しかも,デフレでGDPが大きく縮小してしまった.90年代後半には18%もあった日本のGDPの世界シェアが,今や8%を切るまでに縮小してした.こうした国力の低下は,国際社会における日本の大幅な地位の凋落を導き,挙げ句に,北方領土や竹島,尖閣等の領土問題を導く重大な遠因となってしまった.

つまりデフレ不況こそが,今日の日本の「諸悪の根源」なのである.

それはさながら,お金持ちだった家が急に貧乏になってしまったようなものだ.貧乏になれば何もかも歯車が狂い出し,趣味も仕事もおじいちゃんおばあちゃんの面倒も,挙げ句に友達関係も親戚づきあいも何もかもメチャクチャになっていってしまう───デフレ不況とは一言で言えばそういうことなのだ.

だからデフレ脱却は,文字通りの今日の最大の政治課題だ.防災対策も社会保障問題も財政問題も,はては国防問題も世界大恐慌対策の問題も皆,デフレ脱却無くしてその対応は望めないのである.

しかし一般国民にそういう認識は全く広まっていない.政治の世界でもそれを認識している政治家は一部に限られている.例えば,橋下氏の維新八策にはデフレという文字は一言も登場せず,その一方で枝葉末節なミクロな改革提案が並べ立てられている.そうした傾向は,野田内閣も全く同じだ.要するに彼等には,今日の日本の経済をマクロな視点から眺める「大局観」が全く欠落しているのである.

そんな彼等に政治を委ねる限り,日本が復活する未来は永遠にやってきやしない.「近い将来」に誕生するであろう新しい内閣には是非とも,経済をマクロな視点から眺める大局観の観点から求められるデフレ脱却を果敢に断行いただきたいと切に願う.

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