「国民の力」で国土強靱化を実現すべし

日刊建設工業新聞 所論緒論2009年 10月16日

「国民の力」で国土強靱化を実現すべし

 

京都大学大学院教授・同大学レジリエンス研究ユニット長 藤井聡

 

今の日本は超巨大地震の連動の危機に直面している。この危機に無為無策であれば、数十万人という国民が殺められると共に、最悪一千兆円を上回る巨大被害が予期されている。この危機を回避し、日本という国家が生き残るためには何らかの抜本的対策が求められている。そしてそうした対策として今検討されているのが「国土強靱化」なのである。

言うまでもなく超巨大地震の規模を考えた時、それに対応する強靱化の規模もまた国家レベルのものとならざるを得ない。したがって、強靱化の推進には国会による「立法」と、それに基づく中央政府による大規模な「行政」が必然的に求められる。

そうである以上、強靱化を果たさんと志す者は皆、それぞれの立場で「国政」に最大限の関心を払い、可能な限りの関与を果たさんとする「義務」を負う。

では強靱化を巡る今日の政局は如何なるものか。

まず、現民主党政権は強靱化の必要性を一部認定し、首相が国交大臣に対して強靱化すべしと指示したと伝えられている。しかし現民主党政権の基本方針を踏まえるなら、そうした発言は「単なる発言」にしか過ぎず、強靱化を実質的に果たすとは到底考えられない。そもそも強靱化のためには年間10~20兆円程度の国債発行に基づく「財政出動」が10年程度求められているが、徹底的な「緊縮財政方針」を採用している彼等が、それだけの大規模な財政調達に踏み切るとことはあり得ないからだ(無論、消費税増税のために求められている成長率を見かけ上達成するために、単発的に発行するということはあり得るかもしれない)。これはつまり、現民主党は強靱化をせずに、国民を見殺しにする公算が高いと言って差し支えない。

ただし、民主党は「近い内」に行われる総選挙に於いて政権を失う公算が高いとしばしば指摘されている。そして、その変わりに政権の座に就く見込みが高いと目されているのが、自民党だ。

自民党は、強靱化推進を党の大方針として掲げ、本年6月4日に強靱化を果たすための「国土強靱化基本法」を国会に提出している。それを受けて、先の総裁選の五候補はいずれも強靱化を進める事を明言していた。ただしその「財源調達」については、各候補者の間で乖離があった。その中で、デフレ脱却、増税ではなく成長に基づく財政再建、日銀法改正という形で最も徹底的な財政政策を掲げていたのが安倍新総裁であった。ついては現時点での自民党は、近年希有になりつつあった小渕政権期、麻生政権期に並ぶ「積極財政方針」の下、徹底的な強靱化に取り組まんとすることが十分に考えられる状況にある。なお、公明党は100兆円の公費に基づく防災減災ニューディールを、たちあがれ日本は300兆円の財源に基づく防災対策をそれぞれ主張していることから、これらの党による保守連立政権が誕生すれば、強靱化が実質的に推進されることは十二分以上に考えられる。

最後に、次期総選挙で台風の目となると言われる第三極の中心である「日本維新の会」の橋下代表は、強靱化に対して反対であると「明言」している。したがって、次期総選挙後の政権に維新の会が関与する度合いが高ければ高いほど、強靱化は推進されずに、巨大地震によって多くの国民が見殺しにされる公算が高まる事は間違いない。

以上が、現状の強靱化を巡る状況である。

無論、強靱化はいくつかの争点の一つではある。しかしそれは国家の存亡を考える上での今日の「最重要争点」といって差し支えないのである。繰り返すが、強靱化を果たさんと志す者は皆、国政に関心を払い、可能な限りの関与を果たさんとする義務を負っている。そうである以上、国家の存続を希求する者は、国政の状況を俯瞰的に把握しながら各々の立場で出来うる最大限の働きを果たさんとしなければならない。それができた時に始めて、マスコミによる公共事業や特定の保守政治家に対するバッシングを含めたあらゆる困難を乗り越え、「国民の力」でもって国土強靱化が実現され、自らの手で自らが生き残る状況を創出する明るい未来を手に入れる事が可能となるのである。

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