「決められる政治」の陳腐さとおぞましさ

日刊ゲンダイ,2012.8.24

日本経済の「虚」と「実」~新聞報道に騙されるな!~⑧

「決められる政治」の陳腐さとおぞましさ

京都大学大学院教授 藤井聡

 

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野田首相の「ウリ」は「決められる政治」だそうだ。実際、政府は「消費税増税法」が成立すれば内閣支持率が上がると予想していたらしい。同じ様に橋下大阪市長も、法案成立後、民主党と対決していくとの前言を翻し、野田さんは決められる政治、素晴らしい、と褒めそやした上で「民主党の支持率はこれであがるんじゃないですか」と発言している。

筆者はこの一連の報道や発言を目にしたとき、そのあまりの「水準の低さ」にとてつもない脱力感を感じたものである。

野田首相はじめ彼等はこう思っているのだ。「消費税増税は、確かに国民は反発するだろう。しかし!今増税しなければ、日本の大変なことになってしまう。政治家というものは、一旦決めたことはやり遂げなきゃならない。これが、わたくしの政治信条、決められる政治なんです!」

なんと愚かな人物なのだろう。

「難しい事を決める事」それ自体が重要であるはずがない。重要なのは「正しい事を決める事」以外に何もないではないか。

もちろん何が正しいのかを即断するのは難しい。だからこそ、我々は「徹底的な熟慮と議論」を尊重しなければならない。そして、本連載でも何度も繰り返した通り、「デフレ下における増税」に関して言えば、幾ばくかの良識をお持ちの方なら、誠実な議論を経れば間違いなく「慎重」にならざるを得ない。

しかし野田首相は、国会での「議論」が始まる「前」に、「ネバーネバーネバーネバーギブアップ」の精神で増税をやり遂げると宣言したのだ。つまり彼は「議論」なんてする気はさらなら無かったのである。彼にあったのは「一旦決めた事をやり遂げる、それが政治家だ」という、子供の駄菓子を美味い美味いと言って食べ続ける程度の恐ろしく底の浅い陳腐な美意識だけだったのだ。

その程度の構図は、それなりの人生経験を積んだ大人なら誰もが見て取れるに違いない。しかし冒頭で指摘した人々は「これで支持率が上がる」なぞと宣ったのだ。つまりはメディアを賑わす橋下氏も、内閣要人も、そしてあろうことか我が国の首相までもが「子供の駄菓子レベルの美意識」しか無かったのである。

政治家が子供の国はその内亡びる他無い。この国を救うためにまず必要なのは大人の政治家を選ぶことを措いて他にない。そしてそのためにもまず、国民一人一人がもういい加減、大人にならねばならぬのである。

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