藤井聡:消費税増税では社会保障の自然増には対応できない

日刊ゲンダイ,2012.7.20

日本経済の「虚」と「実」~新聞報道に騙されるな!~③

消費税増税では社会保障の自然増には対応できない 

京都大学大学院教授 藤井聡

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「消費税増税」を巡る論調には,真実とは言い難い様々な(そら)事,すなわち「ウソ話」があちこちにちりばめられている.中でも次のウソ話は,最も重大なものの一つだ.

「社会保障費が増え続けている今,消費税増税は待ったなし!」 

例えば,野田首相は,今年の1月4日の年始記者会見にて「毎年1兆円以上の自然増が膨らんでくる」という認識の下,その財源確保の問題は「もうこれ以上先送りできない」と主張している.

無論,筆者もこの見解については,同意するものである.確かにこの問題については何とかしなければならない,とは思う.

しかし,「だから」といって消費税増税が正当化される訳では全くない.

そもそも消費税を増税しても,景気が悪化してかえって税収が「減る」ということだってあり得るわけだが,仮に税収が「増える」ことがあったとしても,それでも,増え続ける社会保障費の自然増に「消費税増税」では対応することは不可能だ.

考えていただきたい.

そもそも,野田首相が指摘するように,社会保障費は,「年々」「増え続けて」いくものだ.だから,もしもこれに消費税の増税,すなわち「税率の上昇」で対応するというのなら,「年々」社会保障の増加に対応して「税率を上げ続けていく」という対応をとらねばならないではないか.

しかし,そんな事ができるはずなどない.

そもそも少子高齢化がどんどん進んでいく中,社会保障費はさながら青天井のように増え続けていくのだから,税率もまた青天井で上げ続けていかねばならなくなるからだ.

つまり「増え続ける社会保障費に対応するために,消費税増税を」という論理は,端から破綻した論理なのだ.

ここで,その論理が端から破綻したものであるという点を踏まえれば,国民に消費税増税を持ちかけてきたという首相の行為は,「客観性有るデータに基づいて危機感をさんざん煽って,焦らせておいた上で,最後の最後に“まがい物”を掴ませようとする詐称紛いの行為」と大いに重なり合うものだと論理的に解釈することができるだろう.

つまりは,悪徳商法に引っかかる事を回避せんとする賢明なる日本国民は,一見正しそうに見える「消費税増税を正当化する論理」の裏側に潜むおぞましき虚構性にも目を光らせておかねばならないのである.

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