藤井聡:日本を守るために一部メディアの「土建国家批判」に備えよ

日刊建設工業新聞、所論緒論 2012.5.9

日本を守るために一部メディアの「土建国家批判」に備えよ 

 

京都大学大学院教授 藤井 聡

 

  公共事業や積極財政に対して否定的でも肯定的でもない、至って中立的な世論が形成されている一つの国を考えてみよう。

  そして、その国で今、最悪300兆円規模の被害を被ると予期されている首都直下地震の30年発生確率が70%、同じく、第二第三の都市を含めた広域の都市域を直撃する巨大地震の30年発生確率が60~88%だと公表されているとしよう。

  そんな国で、それら超巨大地震に対する抜本的な対策が進められない近未来を想像することは著しく困難だ。恐らくはその国では、その超巨大地震対策の推進を臨む世論が形成され、大規模な防災・減災対策、つまり「国土強靱化対策」が着実に進められていく事となろう。

  しかし、そんな地震が危惧される状況でも、公共事業が積極財政に対して異常とも言いうる程にネガティブな世論が形成されていたとすれば、その国の政策方針は全く異なったものとなる。恐らくそんな国では、人々は次のように感ずることだろう。

  「地震は確かに怖い。だけどだからといって、大規模な財政を出動して、大規模な公共事業をやるなんてナンセンスだ。そんな事をすれば、この国の財政は破綻してしまうだろうし、ムダな公共事業ばかりが進められ、結局、事態が非道くなるばかりだろう。だから地震は怖いけど、結局、自分達にはどうすることもできない。ひょっとしたら、巨大地震も起こらないかも知れないし───」

  そして、こんな国民世論の下、政府は大規模な国土強靱化をほとんど進める事無く、増税やら自由貿易の推進やらに躍起になって取り組んでいくこととなろう。そして───ある日突然、「巨大震災Xデー」が訪れる。そして、数多くの人々の命が失われ、その国は二度と這い上がることが出来ないほどの深刻な致命傷を負うことになる───。

  言うまでもなく、この最悪のシナリオの流れの中に、我が国日本は、完全に片足を突っ込んでしまっている。

  事実、誠に驚くべき事に、今回の大震災の復興や、これからの巨大地震対策の強靱化対策が始められんとしている風潮を感じ取った大手メディアの中の「一部」では既に、「土建国家への回帰を避けよ!」という論調を頻繁に掲載し始めている。例えば朝日新聞は、大震災から一周年となるまさにその前日の3月10日に、土建国家批判を大きく展開した論説を掲載している。言うまでもなく、そういう論調に触れた多くの国民は「確かに復興も大事だが、土建国家への回帰は避けなきゃね」という印象を持った事は間違いなかろう。

  ───まさにここに、我が国を「巨大震災Xデー」に滅ぼす「陥穽」(落とし穴)を見て取ることができる。

  そして無論、そうした「土木国家批判」は復興事業、強靱化事業が進めば進む程により大きくなっていくことだろう。事実、筆者研究室調べでは、バブル崩壊直後や、小渕政権下、麻生政権下に大規模に公共事業を展開した時期に限って「土建国家」という言葉の紙面上での出現頻度が、飛躍的に向上していることが明らかにされている。

  だからこそ、日本を本当に亡国の危機の縁から救い出さんとするのなら、これから間違いなく頻出するであろう「土建国家批判」に対する「徹底的な批判」をこそ、展開していかねばならない。そうした「情報戦」に日本を保守せんとする勢力が敗れ去れば、その敗北は日本そのものが震災によって滅び去るという最悪の未来に直結してしまうだろう。

  だからこそ、日本の明るい未来を構想するためには、我々は日本の英知を結集した強靱化対策と財政金融対策を進めると共に、朝日新聞を含めた大手メディアの中に確実に居られる心ある方々と共同しながら、心なき不条理な情報戦を仕掛けてくるであろう一部勢力との情報戦に、徹底的に備えて行かなければならないのである。

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