藤井聡:TPPのメリットとデメリット(雑誌『フライデー』の取材時メモ)

11月 30, -0001 by 未分類 No Comments

TPPのメリットとデメリット(雑誌『フライデー』の取材時メモ)

京都大学教授 藤井 聡


『TPPのメリットとデメリット』

(メリット)
賛成派は、「貿易拡大のメリットが大きい、日本の自由貿易をさらに拡大して、日
本のお家芸である、工業製品の輸出を伸ばして、日本の経済成長を果たすんだ!」と
いっており、その賛成派の論理に基づいて、政府も、TPP交渉参加を決めようとし
ています。
では、その賛成派が言うメリットは、どの程度なのか?ということですが、これに
ついては、「賛成」を打ち出している政府が、数値計算を行って、次のような数値
を公表しています。
つまり、「10年間で2・7兆円のGDPの増加」、つまり、「一年間で2700
億円のGDPが増加するメリットがある」、と政府は試算しています。
これはGDPのたった0.05%にしか過ぎません。
GDPが5%程度伸びるのなら、それなりの効果があるとも言えなくもありません
が、0.05%程度2700億円といえば、ほとんど誤差の範囲で、為替が円高ドル安
方向に僅かに触れるだけで、相殺されてしまう程度のものです。
しかも、この試算には、円が今よりも安く、貿易黒字も大きかった2000年当時
のデータが使われていることが知られています。この事実は、この計算結果が、「過
大に推計されている」ことを意味しています。
さらに、この2700億円という数値には、「TPPによって日本のデフレがさら
に加速しててしまう」という効果が「一切」考慮されていません(そもそも、TPP
をすれば、日本はさらにデフレになります。例えば、安いお米とかお肉が入ってくる
わけですから、それだけで、日本全体の食料品の価格が安くなり、例えば外食の価格
が安くなってしまいます。なお、デフレは加速しない、という経済学者はたくさんい
るのですが、彼等は、デフレ下では、人々が所得を退蔵してしまう[→貯金ばかりし
て、あまりオカネを使わない]という傾向を持つことを考慮しない経済理論に基づい
て発言しています。彼等の経済理論は、デフレを扱えないものが多いのです)。

いずれにしても、TPPを推進しようとしている政府は、(わずか)「2700億
円のメリットがある」というだけの根拠でTPPを推進しようとしているのですが、
その根拠すら、「過大に推計された誤ったモノである」ということが、学術的な観点
から、明らかにされているのです。つまり、学術的に以上2点を考えれば、日本のG
DPは「増える」どころか、かえって「減って」しまうことも考えられるのです。

(デメリット)
一方で、TPPには実に様々なデメリットが危惧されています。
その内の一つが、既に上に申し上げた「デフレの加速→失業率の向上」というもの
ですが、実は、それだけではありません。
第一に、これはいわずもがなですが、農業の問題、です。賛成派は、「TPPに加
入して、自由競争原理を日本の農業に導入して、日本の農業をより強くしよう、そも
そも、日本の農業は強いのだから、おそるるにたらず!」という論調を繰り返してい
ますが、その論理は根拠薄弱です。たしかに賛成派が言うように、自由競争をさらに
導入することで、日本の農業がより「強く」なるという効果はあるでしょうが、残念
ながら、それは、「日本の農業の中でも、競争力の弱い、零細農業が淘汰される=潰
れていくことを通して、強いものだけが生き残る(そしてそれが幾ばくか規模を拡大
する)」という、自由競争のメカニズムを中心としたものです(ですから結局、トー
タルとしては弱く、なる見込みが濃厚です)。
ですから、極めて安い海外の農産品が導入されることで、日本の地方の零細農業が
大きな打撃を受けることは避けられないでしょう(なお、仮に、地方農家が「合理
化」できるとしても、その合理化、というものそれ自体は、零細の農家の方々にとっ
てみれば、「破壊されること」と同義だとも言えるかもしれません。いわば、うどん
屋さんがマクドに潰されて、その結果、そのうどん屋のおじいちゃんがマクドで「ス
マイル0円」で売るようになった、みたいな悲喜劇は、マクド側にとって見れば「合
理化」「効率化」ですが、おじいちゃんにしてみれば単なる不幸以外の何物でもない
でしょうね)。
ただし、TPPのデメリットにはたくさんあり、農業の問題は、その中の「たった
一つのもの」にしか過ぎません。
どういうようなデメリットがあるのかといえば、「米韓FTA」において、韓国が
被ったデメリットを見れば、おおよそ推計できます(なぜなら、そもそもTPPは、
リーマンショック以後、不景気になったアメリカが、国内の景気対策、雇用対策とし
て、輸出を増大する戦略をたて、その流れの中で、韓国や日本と、自由貿易協定を結
ぼうとしてきているからです。つまり、韓国や日本は、アメリカの明確なターゲット
なのです)。
その米韓FTAで、韓国がどうなるのかというと。。。
・自動車:「排出量基準設定について米国の方式を導入」=自動車の環境や安全を韓
国の基準で守ることができなくなった」
・農業:米以外は、全て自由化された(米も、将来自由化する可能性あり)
・法務・会計・税務サービスについて、米国人が韓国で事務所を開設しやすいような
制度が変更された
・知的財産権制度は、米国の要求をすべて飲んだ。
・医薬品 米国の医薬品メーカーが、韓国に薬価が低く決定された場合、韓国政府に
見直しを求めることが可能になる制度が設けられた。
・農業協同組合・水産業協同組合・郵便局・信用金庫の提供する保険サービス 米国
の要求通り、協定の発効後、3年以内に一般の民間保険と同じ扱いになることが決
まった(要するに共済が解体!)(ちなみに、日本の簡易保険と共済に対しても、同
じ要求を既に突きつけて来ている!)
・・・ということで、韓国は、「米国の関税を引き下げる」「米を例外にする」とい
う二点の条件をアメリカにのんでもらう変わりに、それ以外のありとあらゆる分野で
アメリカの要求を呑んでしまったのです。
しかも、さらに恐ろしいのは、「現状の自由化の程度を、後戻りさせない」という
「ラチェット規定」が、様々な項目に設けられている点です(銀行、保険、法務、特
許、会計、電力・ガス、宅配、電気通信、建設サービス、流通、高等教育、医療機
器、航空輸送などについて)
そして最も恐ろしいのが、韓国が、ISD条項(「国家と投資家の間の紛争解決手
続き」)を飲まされているという点です。しかも驚くべき事に、その条項は、米国に
は適用されない、という「不平等」な約束となっていますす。
このISD条項とは、「韓国内の米国の投資家が、韓国政府に何らかの損害を与え
られれば、「国際投資紛争解決センター」に訴えることができ、その訴えが認められ
れば、韓国政府はその訴えを拒否できない」という条項です。実際アメリカ企業は、
このISD条項を盛り込んだカナダやメキシコとの自由貿易の協定を使って、カナ
ダ・メキシコを訴え(200件にも上ると言われています)、大きな利益を得ている
と共に、カナダやメキシコは、国内の様々なルールを撤廃せざるをえなくなっていま
す。
つまり、韓国は、韓国内の米企業に訴えられれば、自国の規制を変えて行かざるを
得ない国になってしまったのです。
こういう様に、米韓FTAによって、韓国は大きな国益を損ねることになります。
実際、アメリカのオバマは、「米韓FTAを通して、7万人の雇用を確保した」と
演説していますが、これは、アメリカが、韓国の雇用を「奪った」ということを意味
しているのです。

・・・

この様な米韓FTAの様子を見ますと、TPPにおいても同じような不幸が、日本
にももたらされるであろう可能性が、極めて濃厚です(ちなみに、FTAは二国間
で、TPPは10カ国だから、全然別だ、という意見もありますが、それは間違いで
す。なぜなら、米以外に、大きなマーケットを持っている国は日本以外にはないから
であり、アメリカはTPPの交渉の中で、日本のマーケットの様々な規制を変えさ
せ、日本のマーケットをこじ開けることに躍起になることは、間違いないと考えられ
るからです)。

以上の様に、メリットは「あったとしてもたかが知れている」レベル(というよ
り、無いかもしれないくらいのレベル)である一方で、デメリットは「米韓FTAの
実態を勉強すれば、ほぼ確実にもたされるものであり、かつ、極めて深刻なもの」と
考えられるのです。こう考えれば、TPPは、日本国にとってあり得ない選択である
ことが分かります。

最後に、賛成派は、「デメリットについては心配しすぎ!」「ごちゃごちゃ言わず
に、打って出ないと、日本経済は成長しない!!」という論陣を張るのが常ですが、
百歩譲って、万が一にも、デメリットが発生するリスクが「数割しかない」という
「低いモノ」であったとしても(繰り返しますが、私は、その発生確率は、限りなく
1に近いと確信していますが)、TPPの参加は考えるべきではないと「断定」でき
ます。
なぜなら、デメリットが発生しなければそれはそれで結構ですが、発生してしまえ
ば、極めて深刻な被害を、我が国が被ることになるからです。それはいわば、「目隠
ししながら、道路を横断しても、ひかれないかも知れないが、ひかれるかも知れな
い」という様な状況では、誰もが「道路を横断”しない”」という判断を下すのが当
たり前だからです。

こんな風に考えれば、どこをどう考えても、現時点において、TPP参加を決定し
てしまうことは、極めて不合理であることが明らかだといわざるを得ないのです(も
ちろん、日本をよい国にしたいと思ってい「ない」人々にとっては、TPPは合理的
なものとなっている、とも言えるのですが・・・)。

以上、ご参考まで。